今回もまた置いていかれたのかと鴆は己が身を哀れと思う。
万の妖の頂点に立つ、大妖怪ぬらりひょん率いる奴良組の若頭、そして近い将来は跡目を継ぐであろう彼は、鴆に一言『留守を頼んだぜ』と言ったのだ。
確かに牛鬼組の若い者達が大怪我をして帰ってきたのだから、それこそ薬師としての腕の見せ所だった。
「けどよぉ、なぁリクオ」
誰も聞いていないと理解したうえで鴆は呟く。
「オレだってアンタの隣で闘いてぇんだぜ?」
力を入れすぎたのか、痛み止めを調合していた擂鉢が案外と軽い音を立てて割れる。その呆気なさに鴆は一抹の不安を感じずにはいられない。
もし、我が主に何かあったらと怖くなったのだ。
傍らでいれば応急処置も出来ようが、留守を任された以上はのこのこと出て行く訳にもいかない。
「無事で帰ってきやがれってんだ」
そして、不遜な態度で凱旋したのだと言うアンタと、闘い疲れた仲間達と酒を酌み交わす事が出来たなら、どれだけ寿命も延びる事だろう。
割れた器を片付けながら、手元が震えるのを鴆は気のせいだと誤魔化していた。
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