第42幕




今回もまた置いていかれたのかと鴆は己が身を哀れと思う。

万の妖の頂点に立つ、大妖怪ぬらりひょん率いる奴良組の若頭、そして近い将来は跡目を継ぐであろう彼は、鴆に一言『留守を頼んだぜ』と言ったのだ。

確かに牛鬼組の若い者達が大怪我をして帰ってきたのだから、それこそ薬師としての腕の見せ所だった。

「けどよぉ、なぁリクオ」

誰も聞いていないと理解したうえで鴆は呟く。

「オレだってアンタの隣で闘いてぇんだぜ?」

力を入れすぎたのか、痛み止めを調合していた擂鉢が案外と軽い音を立てて割れる。その呆気なさに鴆は一抹の不安を感じずにはいられない。

もし、我が主に何かあったらと怖くなったのだ。

傍らでいれば応急処置も出来ようが、留守を任された以上はのこのこと出て行く訳にもいかない。

「無事で帰ってきやがれってんだ」

そして、不遜な態度で凱旋したのだと言うアンタと、闘い疲れた仲間達と酒を酌み交わす事が出来たなら、どれだけ寿命も延びる事だろう。

割れた器を片付けながら、手元が震えるのを鴆は気のせいだと誤魔化していた。






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