夏の海にご用心




 倉持所有のリゾートホテルには、癒しの力で満ちている。
 どんな怪我も普通より直りが早いので巷でも有名だ。
 そんな訳で一燈達も身体の傷だけでなく、妖飼の術で侵食される身体を浄化する目的で時々ここを利用している。
 時生にミーコ、ハクタクと朱雀庵の面々で訪れた今回はさながら小旅行のようで。
 特に夏場は海水浴客も来るこのリゾートホテルのプライベートビーチはいつも以上の賑わいだった。
 そんな夏の海は危険だと眉をしかめつつ、一燈は己れの能力を使い煙草に火を点ける。
「ホント危険っスよ、若! そんな鼻の下伸ばして時生さん見てちゃ変質者丸出しっス」
「誰が変質者だっ」
 部下の光樹の忠告に咳き込んで吸い始めたばかりの煙草を揉み消す。
 どうやら煙草を吸う間の手持ちぶたさについつい時生を見つめていたらしい。
「いや、でも若の気持ちも解ります。時生さん、色気ありますもんねー」
 お前みたいなガキにまで解るのか? と、一燈は部下と時生の姿を交互に見つめる。
 確かに光樹の言う通り、時生のハーフパンツ丈の水着から覗く膝やチラリと見える大腿の白さはそそるものがある。
「やべーよな。あいつ、他の男に色気ふりまきやがって、襲われてーのか?」
「こらっ、七尾! 誰のセリフだそれはっ」
 若っス、と、真顔で言う光樹に拳を落としつつ、一燈ももっともだと思う。
 ヘンタイ女のおまけ付きとはいえ、水と戯れる時生の健康的な事と言ったら。あんな笑顔は久しぶりだと、一燈の表情も柔らかくなる。
「なんや、何? うちの事ジロジロ見てっ」
「バーカ、若がお前みたいなデコボコしたヤツに興味があるかってんの。若がさっきからガン見してんのはなー」
「言わんでイイっ!」
 こいつらと来たのは大間違いだったと後悔しつつビーチパラソルの下、運ばれてきたビールに手を延ばす。
「よしっ、ここは一つ若のために一肌脱ぎますっ」
 光樹はそう言ったかと思うと波打ち際に走りだす。
「時生さーん、それってミズノの新作ですよねー、見せてくださーい」
 事もあろうか光樹は時生に走りよったかと思うと、その水着を引っ張って脱がせるような仕草をしたのだ。
「あいつっっ!」
 第三者から見れば戯れあっているようにしか見えなかったが、一燈の位置からは一瞬だけ時生のお尻が見えたような気がしたのだ。
 いや、見間違いに違いないと再びビールを口に運んでいると、
「若、バッチリ見ました?」
 グッジョブと己れを誉める光樹の姿がそこにあって。
「お前、俺をどれだけ変態だと思ってやがる」
「そりゃあ、時生さんの尻にどうやって突っ込むかばっかり考えてる変態だとしか思ってません」
 ちなみにさっきチラリと見ちゃいましたと、明るく言い残し光樹は再び輪の中に入っていく。
 どれだけ俺はヘンタイ扱いなんだと嘆息しつつ殴る気力も失せる。
 確かに光樹の言う通り、時生に邪な思いを抱いているのは確かな事なのだ。少年から大人へと近付く、瑞々しいまでの肢体。時折見せる切なげな表情に眠れぬ夜を過ごす事もある。
 ヨーマを飼う身を癒すという大義名分で来たものの、実際のところ時生がいなければ必要ないと断っていただろう。
 そんな一燈の側にハクタクが姿を現す。
「時生様、ようお似合いで。このハクタクの見立ては完璧でしたな」
 生まれた時から時生の世話をしているハクタクは志村家のブレーン的存在だ。
 六年前の事件があってからというもの、時生の身の回りの世話も一手に引き受けて、車の免許も時生のために取得したというから覚悟は半端ではない。
 今回の水着(ミズノの新作らしい)もハクタクが用意したのだろう。
「あれはハクタクが?」
「オホホホ、このハクタク。時生様の身の回りは何なりと。服のサイズもこちらのサイズも全て把握しておりますゆえに」
 こちらのサイズ? と、隣を見るとハクタクはコレですと、親指と人差し指で輪を作って見せる。
「なっ!!」
 そのデスチャーは!
 まさか、いくら志村家へ仕える身とはいえ、そんな部分まで知っていて良いのか?
 いやよくないっっ!
 ハクタクは何と言って時生を説得し、そんな部分のサイズを測ったのかと詰問するよりも悲しいかな好奇心が先に立つ。
「ち、ちなみに時生のサイズは?」
「ウヒヒヒヒ、右で13だったかと」
 そうか時生は右に傾いていて最長13センチか。まぁ小ぶりだが年齢から言うとまだまだ成長期であるしこれからだなと想像する一燈の姿はどこから見ても変質者であった。
 だがしかし。
「やっぱ気にいらねぇ、なんで時生のアレのサイズを知ってんだっ」
 身の回りの世話はそこまで及ぶのかと下世話な想像が浮かぶ。


『ハクタク……、僕の身体、おかしくなったみたい……』
『オホホホ、このハクタクめにおまかせください。そう身体の力を抜いて。ウヒヒヒ、痛くはございませんゆえに』
『やっ、ハクタク、そんな……、あぁっ』


 なんて羨ましいっ。いや、なんて下剋上なっっ。
 そんな勝手な想像にワナワナと怒りを覚える一燈にハクタクはまたもや意味深な笑いを浮かべて。
「右の薬指の指輪のサイズでございますが、何か? 確かコスプレで必要とかでサイズをお測りになってましたなぁ」
 ウヒヒヒヒと気味の悪い笑いで去っていくハクタクに、からかわれていたのだと一燈はやっとの事で気が付いたのである。

(まったくどいつもこいつも)


 夏の海は危険だと再認識した一燈であったが、夏のホテルにはもっと危険が一杯だったのである。





次はホテルでうきうき夜這大作戦やよ!

って嘘です。(えっ読みたい?)←むしろ書きたい
しかし、いつもながら下品ですみませんorz 



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