見送った背中




 電話での事務的な内容を復唱して受話器を置く。
 とうとう倉持も代替わりで今夜継承式がとり行われるという。

 そして依頼されたのは志村への連絡。
 何故かというと、細美と志村は昔から横の繋がりが強かったため、6年前のあの事件から何かと補助する立場にあったからだ。

 主(あるじ)に用件を伝え、俺は最後にこう付け加える。
「若、志村家への連絡お願いします」
 蕎麦打ちの途中の若は驚いて顔を上げた。
「はぁ?俺が?」
 当主の自分がわざわざ?と、口にはしないが不満げだ。
「嬉しいくせに。夜からですからごゆっくり!」
 後は任せてくださいっス。言うなり若からのし棒を奪いとるも抵抗はない。
 俺だって若の気持ちは良く解っているのだ。
「伝えるだけだっ」
 いそいそと着替えをする若に声をかける。
「若、シャワー浴びました?」
「浴びるかっ」
「ゴムは持ちましたー? 病気移したら殺されますよ?」
 もしかしてナマですか? なんて調子に乗ってたら殴られた。
「マセガキが!帰ったら説教だぞ」
 第一に病気なんかもってねーよ。と毒づく若に追い撃ち。
「えっ一個じゃたりないんですか? 何回でも良いですけどあんまりひどくして、二人揃って欠席なんて嫌ですよー」
 悔しいから若なんて見ずに蕎麦だけを見る。
「あのなー、俺達はそんなんじゃないってーの」

 えっ? そうなの?

 時生さんとの関係を否定する若に思わず顔を上げる。

 なんだ、嘘か…。その嬉しそうな顔を見ればわかります。
 でも悔しいから攻撃の手は緩めない。
「まさか、まだ清い間柄でしたか……。可哀相に、あれだけ尽くしてんのにネ?」
 揶揄うと若はぶっきらぼうに、
「七尾っ!! 帰ったら覚悟しとけっ」
 そう言い残して行ってしまったのだ。

 時生さんって若の事どう思ってるんでしょうね。でも多分俺の方がたくさん若の事を好きなんだけどな。
 世間じゃツンデレってのが流行りらしいけど、若もだなんて……。


 見送った背中にだけ僕は涙を見せた。




一時前提の一←七。七尾君は諦めてるんだけど諦めきれてない感じ。



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