幼い頃の時生はよく笑う少年だった。
 広い寺を駆け回り、次男という立場から甘やかされ、時人とは違い自由を充分すぎるほど与えられていた。
「一燈にーちゃーん」
「時生!! 池に入ったら危ないって言われてんだろっっ」
 本家である志村には守護家が集まる事も多い。そんな中で次期当主として一燈も何度も顔を出しているうちに、やはり同性の子供同士仲良くもなった。(年頃の少年にとってやはり同じ立場とあってもみちるは別だと感じていたらしい)
「平気、冷たくて気持ちいいよー」
 大きく手を振る時生はザブザブと大胆に池を横断し、こちらへとやってくる。
「ずぶ濡れじゃねーか」
 その格好で上に上がると怒られるんじゃねーか? と、時生に言うと濡れた衣服を大胆に脱ぎ捨てる。
「こうしてればすぐに乾くもん」
 体が乾けばいいんでしょと言い捨てて濡れた服などお構いなしに走っていく時生。
 その頃から己の性癖を自覚していた一燈にとって目のやり場に困る風景だったのだが、思えばあの頃の時生は一番生き生きとしていた。
「一燈さん、時生が何か?」
 時人が訳知り顔で笑っている。その笑いが偽物だとは当時はまったく気がつかなかった。
「いや、元気だよなーって思ってよ」
「羨ましいです」
 その言葉の真意なんて気付かず、ただ時生の笑顔を眩しく見つめていた。
 あの時、時人の心に気付いていれば、もしかしたら止められたのかもしれないと回顧する。
 きっと彼は羨ましかったのだ。


 すべての事に。





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