この想い、風に吹かれて大空へ 4
そっと障子が開き、吹き込む風に目が覚める。 音を立てずに式神が部屋へと入ってきて、続きの間に夜具を用意し始めている。 短い黒髪は艶が出るまで梳られ、薄桃色の着物が愛らしい。目に止まるのは着物と同じ色の紅を差した唇。どこか時生に似た式神に目を奪われていた。 きっと時生もこんな愛らしさと美しさを兼ねた女に成長したであろう。 そんな視線に気付いた式神が驚いたようにこちらを見た。 「一燈さん?」 その口調までもが時生に似ていて笑ってしまいそうだった。 「ふん、ハクタクの差し金か」 「?」 「そういう事なんだろうがよ」 時生への気持ちを知るハクタクが余計な気を回したのだ。つまりこの式神を自由にしていいから時生を忘れろと言いたいのだろう。 「いいぜ、可愛がってやるよ」 手首を掴み引き寄せる。腕の中に捕らえた身体は細い。 胸をまさぐれば貧弱な身体までもそっくりだ。着物の裾を割り、内腿を中心に向かって撫でると怯えたように身体が逃げる。 「か、一燈さんっ、やっ」 再び手首を掴み強引に腕の中に捕らえれば痛いと訴える時生に似た式神。 乱暴に組み敷いてやろうか? 着物をはだけさせ、嫌がる身体を奪ってやろうか? しかしその瞳が、信頼に満ちたいつもの時生のようで狂暴な感情が引き潮のように引いていく。 「心配ねーよ、優しくしてやる」 初めての女を相手にするかのように髪を優しく梳き、額にキスを落とす。 目を瞑りキスをねだるような表情にいつの間にか我を忘れていった。 虫の音が涼やかに響く。月が冷たい光で周囲を照らす中、事後の倦怠感を一燈は煙草で紛らわせる。 「やっぱ女はいいな」 柔らかい肌、包みこむ肉壁の熱さに欲望を吐き出せば、まるで溶けていくかのようだ。 腕の中、初めての痛みを必死に逃そうとする身体を奪い何度も揺さぶれば、次第に一燈を受け入れるよう変化して。 そんな時生に似た式神を厭わしく感じ、むしろ原因でもある己に自己嫌悪を覚え背を向けた。 身体を起こし身支度を整えている式神が口を開く。 「……女なら誰でもいいんですね」 「あぁ式神でも行きずりでも何でもな」 そうだ。時生以外どうでもいい。 だが時生は『男』だ。こうして半ば無理矢理に想いを遂げる事は出来ない。どれ程の抵抗にあうか、想像に容易いだろう。 もう一度時生に似た式神の唇を奪い、その瞳を覗く。隅々まで知った仲だというのに恥じらって目を伏せた一瞬の左目は黒。 分かりきっていたがやはり時生ではないのだ。落胆から邪険なまでに式神を突き放し横になればやがて睡魔が襲う。 ハクタクのお節介が良かったのか悪かったのか、夢も見ずに眠れそうだった。 そして。 やがて朝になり、一燈が目覚めると式神はおらず、幸いとばかりにハクタクにだけ暇を告げて逃げるように帰宅した。 この夜の式神が実は時生だったと気付くのはもっと先で、その時には二人の関係は完全に修復出来ないものになっていた。 そして、さらに悪い事に時生は他の男の物になってしまっていたのだった。 今はまだ続けるつもりはない!! と言いつつ書いてしまう自分ってorz (プロットでは最後のオチまであるんですが) まぁ、おまけのようなものだとお考えください。時生がどうなるか、王道パターンなんですが、ご想像におませします。 |