この想い、風に吹かれて大空へ 3




 眠ってしまった一燈さんを残し逃げ出した僕。偶然なのか、僕は6年前にも転んだ場所で足をとられていた。
 その瞬間、あの時の僕が甦る。
『男な訳ないだろ! その目は節穴かよ』
 どうしたら間違えられるんだと一燈さんをなじった僕。
 甦る真実の記憶。
「……!!」
 僕はどうして今まで自分を男と思いこんでいたんだろう。
 次に最後の父の言葉が甦る。
『時緒すまぬ、業を背負わす事を許せ。時人を助けてやってくれ』
 その時僕は過去を、記憶を、用意されてあった未来を捨てたのだ。
 それでも……。
 僕が女であるという事は一燈さんに恋をしても良いという事なのだ。それに気付いた僕から胸の痛みが嘘のように消える。
 引き返して、この想いを打ち明けてみようか?
 一燈さんは何というだろう?
 だがとても大事な事に気が付いてしまい僕の足は止まる。
 とてもとても肝心な事。
 それは、一燈さんが僕を男だと思っているという事。
『あぁ? 走ると危ないだろーが! 男がそれぐらいで泣くな!』
 確かあの時の一燈さんは僕にそう言っていた。
 節穴となじった言葉は無かったように消え、そして今も僕を弟のように接してくれている。
 6年前ならいざ知らず、今のこの身体で気付かないなんてあるだろうか?
 僕自身、どこかおかしかったらしく毎日見ていたにも関わらず脳が女だと認識することはなかった。
 記憶を呼び覚ます事が出来ないぐらい直線的な線でしかない身体なのか?
 自分でも気付かないのに、一燈さんが気付くはずがないではないか。それぐらい僕は女には遠い。
 おまけに一燈さんには一目惚れしたという婚約者もいて……。
 出る幕ではない。
 僕なんかが一燈さんに告白する資格なんてないのだ。

 それなら……。
 どうして思い出したりしたのだろう。
 どうして恋なんてしてしまったのだろう。

 胸が痛くて、頬を伝う涙を一人拭い、僕はその場に立ち竦む。
 それに、この気持ちを打ち明けたくても守護家の使命がある。
 なによりも女とも思われていないのだ。

 例え天魔波旬を倒しても僕は志村の当主。
 一燈さんと共に歩む道は何一つ残されていない……。




念願のニョタでした。「時生」=「時緒」の妄想は紅緒から。大正ロマンでもハイカラさんでもないですが、単に名前のインスピレーション。ニョタはどの作品でも一回は書きたくなるやつです、すみません。
今後、昼メロな展開が待っているのですが、今のところは頭の中にしまっておきます。



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