君と僕の温度差 10
そんなにも俺はココに嫌われていたのだろうか……? いや確かに嫌われるような事をしたのだから自業自得と言えよう。 何をしたか考えて、まるっきりココの意思を無視していたのだと反省する。人間の身体では愛の行為であるのに、自分は暴力さながらココに強要したのだ。 「……ココは、のぞみの家なのか?」 許さないプライドを曲げてのぞみに聞くと、意外にもあっさりと返される。 「やっぱりココ、帰ってなかったんだー」 今日も一緒に帰ろうと誘うと、教師と生徒が一緒にいるのはマズイよ、と笑っていたので先に帰宅したのだという。その時こまちが、良かったらうちにこない? なんて声をかけていたのでおかしいなと思ったらしい。 のぞみですらココの様子がおかしいと気が付いている。それなのに一番身近であるはずの自分がココを傷つけ、醜い感情を押しつけているだなんて。 一体どこに行ったのか。唯一の心当たりであるのぞみも知らないとは。 腕を組み難しい顔をしていると、こまちがそっと傍らに立つ。 「迎えにいってあげて」 学校の敷地で寝泊りしているとこまちの言葉にナッツは眉を寄せる。 そんなところをナイトメアに見つかったりしたら? 解らないココではないだろうから、そこまで自分が追い詰めたのだと苦々しく思う。 こまちの言うとおりに学校の敷地内を探す。 だがココが見つかる事はなく、すごすごと家に戻るしかなかった。 (仕方無い。明日こまちに頼んでココの居所を教えてもらおう) 疲れた身体を休めようと思うのだが、それどころではないと、今頃ココはどうしているか、野良犬に追われていないかと気持ちばかりが逸る。 だがそんな心配は杞憂だった。 裏口の扉を開けて中に入るとそこにココがいたのだ。 これから出るところだったのか手には荷物がある。 「今ならナッツは出掛けているとこまちが言っていたのに」 こまちと共謀し、留守と知って戻ってきていたココに怒りがわく。その泣きそうな表情に追い撃ちをかけるように扉に鍵をかけた。 「空き巣狙いとはいい度胸だ」 逃げ出そうとしたココを捕まえて、腕の中に閉じ込める。 ここ数日で体力も消費しつくしたのか簡単に捕まり、ココはぐったりと目を瞑りやっとの事で声を振り絞る。 「ナッツ、もう嫌だ、こんなのは……」 震えているココ。その心にあるのは恐怖か絶望か。 だが自由を与えるつもりはなかった。 「俺は欲しい。もう我慢できない」 愛しているのだ。これ以上離れ離れなんて考えたくない。 これまでの事を詫びるように優しく唇を奪う。開いたシャツの素肌にキスを落としていくとココは我慢出来ないというように身体を強張らせた。 「や、ナッツ……」 泣きそうなココに、こんなココは違うと心が沈む。 俺が見たいのはココの笑顔だ。俺を見て好きだと言って、心から求めてほしい。 「ココ、お前の心が欲しい。俺だけを見て俺だけのために笑ってほしい。身体なんか欲しくない。俺だけに笑いかけてほしい」 それだけできっと幸せになれる。 「……なにそれ、ナッツ」 ココの戸惑いが手に取るようようだった。 「僕じゃなくてもナッツには……」 想いを寄せる者は大勢いる。それは人間界でも同じだ。 「お前がいいんだ。他なんていらない、ココだけが」 ココだけが欲しい。耳元で囁くとココは力なく笑う。 「そんな告白みたいなセリフ……」 「告白だからな」 そう、これは紛れもなく告白だった。 「……嘘」 「嘘なものか。俺は……」 ほとんど同じ背丈のココを抱き締めるとここ数日で痩せたのが解る。腰に手を回すとココがみじろいだ。 「お前も同じと思いたい」 無言のココにさらに続ける。 「黙って俺に抱かれたのは、俺を好きだからって解釈しても良いのか?」 確信めいたものはあったがココから直接聞きたかったのだ。 「……でもパルミエに戻ったら、ナッツも、きっと忘れるよ」 「お前は忘れられるのか?」 「……」 ナッツの言葉を否定出来なかった。 忘れられるはずがない。ナッツになら何をされても良いと、男のプライドもなく組み敷かれた。 それが何を意味するか。 「僕はナッツにひどい事をした。許してくれるかな」 知らなくても良い事を教えただけでなく、逃げてナッツを傷つけた。 「確かに。しかしそれは一生かけて償ってもらう」 そう言ったナッツの笑みがとても綺麗で、背中に回した手に力を込めて目を閉じる。 またナッツもこれ以上離れたくないとさらに強くはココを抱き締めた。 まだパルミエは復活しない。そして道のりも遠い。だがしかし、挫けそうになっても互いの存在で救われる事もあるだろう。 未来はまだ不確かだったが同じ温かさに包まれ、二人はキスをする。 それはきっとパルミエに戻っても変わらず続くと二人は確信するのだった……。 最終話です、おつきあいくださりあがとうございました。逆カプのナツココですが自分的にはこれしか考えられなくって突っ走ってしまいました。最後は(あまりのマイナーに)かなり失速してしまいましたが無事完結!!プロットは1話の段階で出来ているので、ほんの少しの肉付け作業にかなり手間取り、お待ちいただいていた方には本当に大変お待たせしてしまったとお詫びいたします。とりあえず終って良かったです。 |