君と僕の時間
人間界と呼ばれる世界がある。物質的でこの世界とは正反対の世界。憧れるだけのまだ見ぬ世界。 行き来する方法はただ一つ、パルミエ城の北塔に住む魔女だけが知っている。 「人間界に行きたいだって。あぁいいともさ。だがその麗しい姿と引き替えじゃ」 ボクの白い肌に魔女の杖が突き付けられると、ナッツが無愛想に杖を叩き落とす。 「まさか、ボクがカワイイからって」 ナッツが愛してくれているこの姿を手放すのは惜しい。けれど、人間界にはとても心惹かれるんだ。 「アホをお言いでないよ。だれがそんなマヌケ面なんか欲しがるものか。いいかい、人間界は醜悪な世界じゃ。精霊のおぬしたちは獣の姿になろう。もちろん知性も劣化する」 呆れたような魔女の言葉は、単にボク達を心配しての苦言だった。 「もちろん人間界で今の姿を保つ事は出来るが、精神力を多く消費するから気をつけるのじゃぞ」 魔女の背後の大きな鏡にこのパルミエ王国とは違う世界が浮かんでは消える。その、とても醜い世界にボクは一歩下がっていた。 「そこまでして、人間界に興味なんて……」 獣の姿になって知性まで劣化したら、ナッツの事を忘れてしまうかもしれない。 ナッツもボクの事を忘れてしまうかもしれない。 (それじゃあ本末転倒だ) 「パルミエ王国以上の国なんてないって事だ。解ったら帰るぞ」 「ナッツ、待って」 相変わらず不機嫌なままのナッツの後をボクは慌てて追い掛ける。 ただボクはさ。君と自由な時間を過ごしたかっただけなんだ。 ナッツはドリームコレットの守護者として、制約ばかりで近頃は恋人のボクとだって満足に会えないだろ? それに会っても喧嘩ばかりで……。 君と二人で誰にも縛られない時間を過ごしたいって思うのは罪なの? 人間界。とても心惹かれるけれど、ナッツと二人で満足できる時間を過ごせないなら用はない。絶対に行く事もないだろう。 だから、ナッツ。もっとボクに笑いかけてよ。 ナツココ。と、いうよりもパルミエ王国では人型基本という捏造。ココはナッツを好き過ぎる誘い受という事で。 |