これが僕らの体育祭



『ねぇ光? もっともっと、僕の事だけ見ててよ』


 体育祭なんてないものと思っていたハルヒの予想を裏切って、桜蘭学院ではこの晴れ渡る空の下で桜蘭体育祭が執り行われている。
 選択科目に体育を選ばなかったハルヒが指定の体操着を用意できるわけでなく、そして運動音痴である事も加味されて彼女は本部での手伝いに従事していた。
 それでも、今日の空はとてもよく晴れ渡っていて、最寄りのスーパーは生鮮食品の安売りをしているだろうとハルヒの思考は体育祭とは別のところに飛んでしまっていた。
 すでに何種目目かが滞りなく終わり、A組連合とD組連合の首位争いが激化していたがそれよりも早く帰りたいとハルヒは欠伸をかみ殺す。
『あっ馨だ』
 女の子達の黄色い声が高くなったので目を向けると馨が走っている。確か借り物競争に出ると言っていたと思い出し、もっと良く見ようと立ち上がる。
 見ていると救護用のテントへと向かっていて、次に鏡夜と手を繋いで走り出したので黄色い声が一層大きくなった。
 しかしハルヒにとっては二人が仲良く走るよりも今夜の夕飯を何にするかとか早く給料日にならないかとか現実的な事を考える方が忙しくて、目の前で走るホスト部のメンツの事はすっかり忘れ去っていたのである。


 救護用テントに向かった馨はお目当ての人物を見付けると、手の中の指示文書を見せて眼鏡の強奪を計る。
 だが、しかし。その手を阻まれるのは予想どおりで。
「眼鏡をかけている人間の『眼鏡』を奪おうとは良い度胸だな」
 非常に困る。と、片手間に怪我人の管理をしつつ、勿論医者は10人程待機しているので保健係と言っても形式だけのもので、相変わらずノートPCと仲良くしている鏡夜に馨は強引に迫る。
「じゃあさ、先輩も来てよ」
 そう下からのアングルで見上げれば、さすがの鏡夜も仕方ないとばかりに立ち上がり、そのまま馨に牽かれるままにゴールへと走った次第なのだが……。



「ねぇ馨のなんだったの?」
 楽しそうに鏡夜と手を繋いでいた馨を見てしまって、光はすこぶる機嫌が悪い。
 そんな光の言葉に、本部で道具が返ってくるのをチェックしていたハルヒが、ゴールの審査員に馨が手渡していたと思われる紙を見付けだす。
「きちんと見てなかったけど、多分これかな」
 二つ折りだった紙を走っている途中にだろうが四折りで審査員に渡していたから、おそらくこれだろうとハルヒが光に紙を手渡す。
「……!!」
 そこに書かれていた指示を読んで光は絶句した。
『好きな人(恋人)』
「嘘……」
 愕然とする光の手から紙を奪ったハルヒもその文言に哀れみの表情を見せる。
「光、愛想つかされちゃったんだ」
 なにげに直球なハルヒに、光の否定したい気持ちも冷たい水を浴びせられたかのように萎えてしまう。
 双子の兄弟でラブラブ(死語)な恋人同士と思っていたのは自分だけだったのか、それとも心変わりした事を遠回しに伝えようとしているんじゃないだろうかとか、嫌な考えばかりが浮かんでは消えていく。そこにいる光はさながら廃人のようで……。


「で、この俺をわざわざ走らせた礼は期待して良いんだろうな?」
 鏡夜の言葉に馨は小悪魔な笑みを見せる。
「まかせといて、次の営業で指名増やすから」
 絶対に光は鏡夜との事を疑って、牽制出来る営業中に見せ付けるような事をしてくるに決まっていると馨はほくそ笑む。
 光の関心も買えて指名も稼げるならこれ以上の事はない。これで光は当分の間、つまらない嫉妬心を煽ろうとして、わざと女の子と親しげに話す事もないだろう。
 眼鏡と書かれた紙を破り捨てると馨は空を見上げる。青く澄み渡る高い空に秋独特の雲が浮かんでいた。








キリ番getのkuro金魚様のリクですが、体育大会とか体育祭とかひたすら苦手だった運動音痴な高那です。特に一番最後の体育祭はもしかして自分、○務所に入った?っていうぐらい厳しいもので、今でもその全寮制での生活を思い出すと暗ーくなってしまいます。話はそれましたがkuro金魚さんリクありがとうございましたvv そんなkuro金魚さんのサイトはこちらからとうぞ



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