最後の恋 12
僕は嬉しそうに話しかけてくる光の言葉にやっと気が付いたのだ。光が探していたのは着飾った僕だったということに。 毎日一緒に居るのに、ほんの少し外見が変わっただけなのに、どうして光は気付いてくれないのだろう……。 どんな姿でも僕は僕だというのに……。 悔しくて悲しくてその場から逃げるように走りだす。どこかに消えてしまいたかったのだ。 着飾って見た目が少し変わっただけなのに、光は気付かなかっただけでなく、あの夜の僕に恋をしたのだ。 それは僕であって僕でない僕。 逃げ出しても7センチもあるヒールの靴ではいつものように走れず、腕を掴まれ易々と光に捕われる。 「待って。えっと……、僕に会いに来てくれたんだよね」 声が弾んでいる。とても嬉しそうな光に涙がこぼれそうだった。 どうして気付かないの、光? こんなのひどいよ。少し変装しただけで僕が解らなくなるなんて信じられない。 「……光のバカ、大嫌い」 呟いた言葉だったが、その聞き覚えのある声に光が驚く番だった。 「その声。……まさか馨なのか?」 疑問系であっても確信があったのだろう。やっと気が付いた光は騙されていたと思ったのか、怒りで声が震えていた。 「あの姫はお前だったのか……」 光の脳裏に浮かんだ姫は、いつの間に馨としてインプットされなおしていた。あれだけ焦がれた姫が馨だったなんて……。 「サイアク。妹に恋するなんて」 しかし額に手を当てて自嘲した光の表情から、まるで潮が引くように怒りが消える。 「光?」 「初めて、恋をしたんだ。鏡夜先輩と踊っていた姫に、ダンスを申し込んだら断られて。気が付いたら彼女の事ばかり考えてて……。まさか馨に惚れただなんて、な」 馨だと知った今も恋する気持ちに嘘は無い。そう言った光の瞳は真剣そのもので……。 「光が僕に?」 「悪いかよ。こんなキレイな子に恋しない男がいたら男じゃないね」 化粧で目元や唇は強調されているが、よく見れば輪郭は馨そのもの。どうして今まで気付かなかったのか不思議なぐらいだった。おまけに、この美しさはどうだ? 「ちくしょう、どおりで男達の馨を見る目が変わってきたはずだよな」 ホスト部の面々だけじゃなく、クラスメイトですら馨に好意を示していたのだと今更ながらに気付く。ハルヒの父ですら馨の美しさに気付いていたというのに、一番近くにいた自分は何を見ていたのかと光は自嘲する。 「光が恋した姫が、僕でショックなの?」 おずおずと切り出すと光は当たり前だと言わんばかりに僕に詰め寄る。 「だってお前は妹なんだ! 忘れなきゃならないんだよ」 常識とか世間体とか、法律とか。全部が僕達を引き裂こうとしているのだと光は悲劇の主人公のように運命を呪う。 そして、 「でも馨を好きなんだ。この気持ち、忘れられる自信がない。きっと来世でも馨を好きになるから、生まれ変わったら今度は血の繋がりのない別人に生まれろよ」 おそらく、光にとっての苦渋の決断なのだろう。しかしそんな光に、光が知らないかもしれないという事実に思い当る。 「光は戸籍見たことなかったの?」 僕はいとこになるんだけど? 妹として育ったけれど本当は妹じゃないんだと説明すると今まで悲劇の主人公のようだった光が沈黙する。 その表情からは何も読み取れないが、僕には光の考えが手に取るように解った。 「確か、いとこは結婚出来るんだよな。じゃあ馨にキスしても良いって事?」 「まぁ、そうだね」 そういう風に言い出すだろうと思っていたがまさか本当に言うなんて。単純というかなんというか。 半分呆れていた僕に光は顔を近付けてくる。 この体勢って……。 「ちょっと光、キスなんかしたら怒るよ」 睨む僕に、光も躊躇ったのか動きが止まる。 「どうしてもキスしたかったら、いつもの格好の僕にしてよ」 そんな僕の要求に、なんと光は、 「それは勘弁……」 同じ顔だしと、顔をしかめ即答したのだ。 「…・・・へー、そう。光の気持ちはよーく解りました」 僕はくるりと背を向けて歩きだす。 「えっなんか変な事言った?」 まったく空気の読めない光が慌てて追い掛けてきたけれど、一足早く屋敷に入った僕は光の鼻先で扉を閉めて鍵をかけてやる。 なにか叫んでいたけれど知るもんか。 鈍すぎるにも限界がある。本当に何にも解っていないんだから……。 そして……。 光が男装姿の馨にキスをして、校内新聞の一面を飾ったのは二ヵ月後。 また、美しく成長した馨に光がプロポーズするまであと二年。 やっと最後の恋は終わる。 馨を幸せにしたかった!!以上!! とはいうものの最高の幸せが結婚かと言われれば決してそうじゃなくて。ただ兄弟、同性というハンデが無かったら。という捏造です。腐っててすみません。パラレルもいいとこですが光と馨に未来という幸せを。 |