夏祭りの夜の夢




 「今年の新作も良い色だよねー」
 鏡の前でくるりと回ってみせた馨。
 浴衣の着付けはもうすっかり慣れた様子だったが、それよりもさっきからの着替えを、初めから最後まで特等席で見てしまったため、はっきり言って別の所が立ち上がってしまって、光は自分の着替えのために立ち上がれないでいた。
 目の前で繰り広げられたストリップ(注・大間違い)、そして下着姿の馨。めったに下着姿を見せる事のない馨の生着替えは生殺しに近いものがあった。
 ボクサーパンツはまさに裸体を易々と想像させるもので、形の良いヒップラインや、すっかり大人に近付いたモノの形までをも浮き彫りにしていて、まさしくノックアウト寸前と言えようか。
 しかし苦手な英文を考える事で自身を落ち着かせて、光は着替えを済ませる。
 それでも浴衣を脱ぐとあの下着姿があって、さらにその下は……、と考えると動機と息切れがひどい。
 はっきり言ってもうそろそろ限界でいつ押し倒してもおかしくない段階にまできている自覚があった。
 いやそれよりも前にコッチが悲鳴を上げている。
『ヤバイ』
「さっ、先に車に行っておいて!」
 そう言って、馨が部屋を出るのを確認して慌ててトイレに駆け込んで右手を汚す。情けないが馨を想うと三回半ってやつだ。本番の時には一回半ぐらいかもしれないと思うとさらに情けなくなるのだが……。
 しかし最近、回数が増えたのは馨が無防備な姿を見せるからだ。
 先日も夜中に寝呆けた馨に抱きつかれて、太股で股間を刺激された時はもう最後まで行くしかないっと決意したものだ。なんとか理性で抑えたけれどはっきり行って生殺しだ。
 しかしこれを馨に突っ込むなんて考えただけでも気持ち良さそう、じゃなくて馨が可哀想になる。
 きっと痛くて泣くに違いない。自分が馨の中で気持ち良くなってる時も馨は痛くて痛くて涙を流すのだと思うと、光はいつまでも一線を飛び越える勇気が持てないのであった。
 車で夏祭りの会場に行くとすでに殿達が待っていた。
 庶民の祭りはチープで楽しい。いつもはカードしか持たないけれど、貰ったお小遣いで油でギトギトのヤキソバを食べる。
「カオちゃんも食べる?」
「あっ、コレいただきまーす」
 ハニー先輩に綿菓子と林檎飴とチョコバナナを差し出された馨が手にしたのは、チョコバナナで。
 口にくわえる様子はエロさ満載。
「ほら、光も食べなよ」
 そう言って口から引き抜く時のいやらしさに、心底からヌいてきて良かったと思う光なのであった。







「光……、気持ち悪いかも」
「あーもう、食べ過ぎなんだよ」
 ヤキソバにチョコバナナ、フランクフルトなんて食べてる姿は犯罪に近かったと光は思う。
 部屋に帰るのも足元が覚束ない馨に肩を貸すが、心なしか少し息が荒いように見えた。
「苦しい……」
「吐く? 洗面所行く?」
「ううん、吐きたくない……、でも苦しい」
 こんな時は胃薬で良いのだろうか? と、常備薬を取りにいき、部屋に戻ると馨はベッドに倒れこんでいて……。
「光、帯外して」
 擦れた声。この声ホントそそられる。って今はそんな場合じゃない。
 結び目を解き、片手で馨の腰を持ち上げるようにして帯を外す。
「んー、コレかけといて」
 そう言った馨は浴衣から腕を抜いて俯せに倒れこんだままだ。
 恐る恐る浴衣を手にする。その下からは下着だけの馨。
「ごめんネ、光……」
 そう言って上向きになった馨。
 潤んだ瞳。あまり焼けていない胸元。ピンク色した胸の蕾。薄くついた腹筋と細い腰、そして身体にフィットした下着に……。
「い、いや。謝んなくても」
 凝視していたいところだったが、なんとか目線を逸らす。
「く・薬飲めば?」
「ヤだ。もう何にも飲めない」
「飲めって」
「光……、飲ませて」
 熱に浮かされたような馨の表情にふらふらと吸い寄せられる。
『もうこれは行くしかない! お父さん、お母さん親不孝な愚息でごめんなさいっ!!常陸院光、今夜、男になりますっ!』








「で、首尾は?」
「もーホント、ダメすぎっ」
 医者が呼ばれて部屋をノックするなんて!
 あのままキスをして、『光ってキス上手なんだ……。きっとセックスも上手なんだろうね』と誉め殺しにして最後の一線を越えさせるつもりだったのに。
「その様子だとまた進展無しのようだねー」
「っていうかハルヒ……、女の子の口にする言葉じゃないよ」
「そう? でもれんげちゃんも聞きたがってるし」

 そんな恋の応援団に馨は脱力する。
 そして次の機会には必ず!と決意したとかしないとか……。









次回最終回!?
馨の襲い受け成功するか!?
光は大人の階段を昇れるのか!?乞うご期待!!






TOP