ジャングルプールS××




 現在夕刻の16時10分。
 いつもならホスト部で営業真っ最中な時間帯。ここは鏡夜先輩の家が来月オープンするリゾートプールだ。
 今ハルヒが着替えていて、殿が更衣室の出口で出待ちしているはずで、僕と光は一足先に着替えをすべく更衣室の中にいた。
 ハルヒにと用意した水着は母が今年のコレクション用にデザインしたもので大半は試作品の数々だ。
 勿論試作品といっても粗悪なものは一点とないはずで、それは男物でも一緒だった。
 あれで結構子煩悩な母は、僕達のサイズは勿論ハニー先輩からモリ先輩までのサイズを用意してくれている。
 光は誰にどれが似合うかなんて一点ずつ選んでいるらしい。あれでいて色濃く母の血を継いでいるようでこだわりは人一倍だ。
 僕はと言えば更衣室内のレストエリアに準備してある果物に口を付けていた。
 いつもならホストとしての接待時に紅茶を飲んだり、僕が好きなスコーンにメイプルシロップをかけて食べたりするので小腹が減ったというような事はない。
 しかし今日は授業が終わると同時にこのプールへと来た訳で……。
 季節を大幅に先取りした果物が並ぶ器に手を伸ばす。まるで淑女の指先のように細長い実の葡萄は皮ごと食べられるものだ。
 甘い果実の誘惑よりも即エネルギーへと変わるようなものも食べておくほうが良いだろうとバナナに手に取った瞬間、横から光にそれを奪われていた。
「馨は食べちゃだめ」
 とうの光はさっき早々と食べていたはずなのにどうしてだろう。
「えー、光だけずるいじゃん」
 どうしてだよと抗議する僕に光は赤い顔をして視線を逸らす。
「だってさー、馨ってば食べ方エロいんだよねー」
 光の発言に『バナナは全部僕のだから』とでも言うのかと身構えていた僕は呆気にとられていた。
 よりによってエロイってなんて発言だとばかりに僕は光に詰め寄る。
「はぁ? 何それ。変な事ばっか想像する光が悪いと思うけど?」
 切って食べるならまだしも、確かに大きく口を開けて食べる物は上品というより下品に感じる。
 特にバナナのような長い食べ物は太さといい大きさといい『アレ』を想像する事も可能だ。
 だからと言って人が食べている様子にそのシーンを当てはめ、勝ってに想像するのは勘弁してほしい。
 キッと光を睨むがそれで怯む彼ではない。
「変な想像しなくても馨の食べ方エロすぎだから」
 流石の僕も光の言い草に腹が立ってくる。
「なんだとー」
 見てろよっ、と言うか早いか、僕は光の手中から件のバナナを奪い取り高速の速さで皮を剥くと口に放りこむ。
 見つめ合ったままバナナを食べる事数十秒。
 だんだんと光の顔が赤くなってくる。
「いや、あのー、馨くん? こっち向いて食べられると、僕としては余計にくるものがあるんですけど……」
 恐らく、横を向いた光の鼓動は早くなっているだろう。
 実を言うと僕は光のリクエストどおり(?)ちょっといやらしい食べ方をしてやったのだ。
 口を窄めて吸い上げ、舌で下から上へと舐めあげたのをまともに見てしまったらしい。
「光のスケベ。鼻血出てるよ」
 慌てて光が確認するがそれは僕の嘘で、からかわれたと知った光が突っ掛かってきた。
「うるさいっ、それになんだよその水着!」
「いつものじゃん」
 自宅別館にあるスポーツジムで水泳するときは動き易さを追求するため、水の抵抗を最小限にと考えられたデザインのものを着用している。つまり競泳用で身体のラインがよく解るように出来ていた。
「ウォータースライダーで滑ろうって約束しただろっ、それじゃあ馨の……馨の…」
 何のつもりか、いつものホスト部での演技のようにちょっと格好を付けて光が僕の腰に手を回す。
「僕だけが知っている馨のカワイイお尻がはみ出ると嫌だな」
「バカ?」
 迫ってくる光の鳩尾に拳を入れつつも僕は水着だけは別のものにしてやろうと考え直す。
「ったく、寝言は寝てから言ってよね。そんなに言うなら光はどれが良いんだよ」
 待ってましたとばかりに光が笑顔を見せる。
「ジャーン、母さんの新作から選んでみました」
 そう言って持ち上げたものは……。
「それってヒモじゃん」
 さっきハルヒが言っていたような気がするがこれがそうかと脱力する。
 それは流石にマズイでしょ、と言うと光も頷く。
「うーん、母さんスランプなのかなぁ」
 幅広くデザインする人だと知ってるけどコレはマズイよねぇ……なんて言う光にさらに力が抜けた。
「他にも心配するとこあるでしょ?」
 母のデザインセンスよりも何よりもそれを本気で僕に着せたいのかと思うと光の思考回路を疑いたくなる。
「あっそうそう、蝶々なんかも良いかなーって」
 今度は前が羽を広げた蝶をデザインした、やはりヒモのような水着を広げる光。
 本気か? と見るとどうやらさっきのお返しに僕はからかわれていたらしい。
「バカバカしいったら」
 結局光と同じタイプの水着にし、プールサイドへと向かう。
 放課後の時間は短い。遊ぶだけ遊ばないと折角来た意味がない。
 とりあえず腹拵えとばかりにマンゴープリンを頼んだ僕は結構光の事を優先しているように思う。
 双子の兄弟で恋人同士。
 兄の光を誰よりも愛しているし、光だってそれは同じだろう。
 今日何本目かのバナナを食べていた光が僕の耳元で囁く。
「あのさ、馨。それで膝立てて座るとチラリズムがたまんない」
 そう言って耳朶を甘噛みされた。多分この時の僕の顔はかなり赤くなっていただろう。
 まったく何考えてんだか。

 過保護?
 独占欲?

 なんか良いよねとほのぼのしている僕に光はなおも続ける。
「ねぇ、蝶のはさ、二人っきりの時につけてよね」

 前言撤回!
 光はただのエロだ!エロ大王だ!!

 独占欲とか良い方に解釈した僕が間違いだったと脱力したのは言うまでもない。



お母さんヒモってどうよなんて考えているうちに、変なネタが……。そして書かずにはいられない変態がここに一人。
光がバカでエロいキャラになってますが、光好きです。
カワイイ子ほど変になるというか崩れるというか。夜は無理矢理にヒモのでも蝶のでも馨に着せてさらにそれを脱がして二人で楽しんで欲しいです(って何を?)



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