後姿の花嫁




 広大な敷地。季節の花々が咲き乱れる庭は庭師の腕の見せ所ではあったが、この常陸院家の跡取りで一人息子の光にとって、庭なんてなんの価値もないものだった。
 しいて言えばガーデンパーティーでゲストの目を楽しませるぐらいのものか。
 母の姉の蛙みたいな顔を見ていたくなくて光は庭の奥へと歩を進める。
 どこへ行っていたのか訊ねられれば庭で迷ったと言っても誰も疑わないほどの庭園。
 遠くに見える、敷地の外れにある小さな家は庭師の家族の住まいだと聞いた事があるがその庭師の顔など興味はない。
 小さい頃から遊ぶと言えばゲームばかりで、外に出ると言っても庭を探索する趣味など持ち合わせていない光にとって、これこそが冒険のようであった。
 大理石の彫刻が飾られた薔薇園の真ん中にある四阿。
 すすり泣く声が聞こえたのは間違いではなくて……。
 誰か、屋敷のメイドが泣いているのかもしれないと光がそっと近付くと女性にしてはやや低めの落ち着いた声の主がそこにいた。
 長い髪。脱ぎ捨てられたパンプス。毎日ベンチに並べられ交換されるクッションに身を投げだし儚げに声を殺し泣いている。
 何よりも驚いたのは彼女が純白のドレスを着ていた事だ。それがウェディングドレスなのはその見事なレースからも一目瞭然で、こんな姿で泣いているなんてただ事じゃないと解る。
 勿論屋敷のメイドでもない。
 では誰なのか? 声などかけず見なかった事にすれば良いと思う自分がいる一方で運命的な引かれ合う何かが光を後押しした。
「どうして泣いてるのさ」
 まるでモデルのような体型の背中がビクンと跳ねたかと思うと、彼女は泣くのを止めて光の方へと向き直る。
 まるで電気が流れたかと思うぐらいの衝撃が光を襲う。
 何故なら彼女の顔が、驚くほど自分にそっくりだったのだ。
「君、名前は?」
 躊躇いながらも彼女が答える。
「忘れてよ、見なかった事にして」
 毅然と立ち上がったその身長は女性にしては高すぎる。
 ほとんど自分と同じじゃないだろうかと光が見つめていると、彼女はドレスの裾を持ち上げ優雅に一礼すると四阿から立ち去ったのだ。


 どうして泣いていたのか。
 どうして男のくせに、女の姿、それも花嫁姿をしていたのか。
 どうして自分とそっくりなのか。


 疑問ばかり残して消えた『彼女』に心を奪われたと気付いた光。
 しかし彼女はもうすぐ嫁ぐ身だったのだ。






 そして。







 逢瀬を重ねる二人。
 いつしか芽生える禁断の愛。
「ねぇ、光。僕を君のものにしてよ」
「馨……」
「僕はね、光。『女』として嫁ぐんだよ。あの人は他に愛している人から、その身代わりに抱かれると思う。だから、その男に貫かれている間も光の事を考えていられるように思い出が欲しいんだ」
「僕と逃げよう馨!」
「逃げる? 逃げてどうなるのさ? 一体何から逃げられるんだよっ」
 馨の悲痛な声に光は答えられない。
「僕達に未来はないんだよ、光……」
 哀しげに紡がれる馨の言葉に光はいつしか唇を重ねていた。そして初めて二人きりで過ごした夜。




 二人の運命の歯車はまだ回り始めたばかりだった……。







 今秋発行予定パラレル光馨。昼ドラのノリでホモ満載でお届けします。
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 最後までがネタです…。
 心の広い皆様、脳内妄想の暴走にお付き合いいただきありがとうございました〜





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