LADY GO 10




 盛夏を目前にしたある日。佐為のために俺は囲碁から逃げない。佐為に代わって神の一手を極めると心に決めて。
 俺はまずはアキラに宣言した。
 女として認められようなんて、そんな考えはもう捨てた。そんな浮ついた考えでは、神の一手なんて無理だろうから。
 夏休みの間、あかり達が受験勉強をする間も研鑽に研鑽を積み重ねた俺。すべては塔矢アキラとの対局のため。そして神の一手のため……。
 季節は秋になっていた。


「追ってこい!」

 そう言った塔矢アキラがどうして学校にまで迎えにくるのだろうか。
 それまでにも何度かあやしい気配は感じていたのだけれど姿は見えなかったので気が付かなかったのだ。
 そして今日もまた堂々と校門の前に塔矢アキラが居る。佐為が居ればこの不可解な行動の意味を教えてもらえるんだろうけれど。

「あのさ。なんで毎日ここに来るんだよ」

 あかりに笑われながら塔矢アキラの存在を教えてもらった俺。あかりが『もう、ヒカルったらにぶすぎっ! 見てらんないよ〜』と指差す先にアキラが居て……。
 こうして並んで帰宅する回数が対局した数をはるかに上回って俺は痺れをきらしていた。
 忘れようと思ったはずの塔矢アキラへの感情が思い出されて、こうして並んで歩くと、その高くなった背や凛々しくなった顔つきに胸が痛くなる。
 俺の初恋。
 初恋は実らないって誰かが言ったっけ。
 俺の塔矢への想いは実らない。だって俺って散々男に間違えられたし。塔矢が俺を女と思っているのかも怪しい。
 まぁ、それでも良いさ。俺達には碁があるんだ。
 なんて決意した俺に塔矢は一瞬耳を疑うような発言を口にしたのだ。

「僕の子供を産んでほしい。君の腰付きからだとたくさんってのは無理そうだけど。最低二人は子供を作りたいんだ!君と!!」

 心配しなくても、僕には子供を授ける能力は備わっていると思うし……。とアキラは続けるが、その横でヒカルの動きは止まってしまっていた。

「と、塔矢……!?」

 アキラにとってはプロポーズの言葉でも思春期の乙女にはかなり刺激が強すぎたらしい。

 『腰付き?』『子供を作る?』『子供を授ける能力?』

 キスどころか、告白だってしていないのに、肉体関係を示唆するようなアキラの言葉にヒカルの頬が見る見るうちに赤らんでいく。
 両想いになれたという事に気付くよりも恥ずかしさが先立った。

「お前って信じらんねぇ!!」

 背負っていたデイバッグをヒカルは思い切りアキラ目掛けて振り下ろす。そして逃げるように駆け出したヒカルの背にアキラの怒声ともとれる声が投げ付けられた。

「僕は君を好きなんだ! 進藤!!」

 好きという言葉に振り向いたヒカルの顔は乙女の表情そのもの。白い頬をうっすらと染めた様は愛らしくも美しくもあった。……が、中身はまだまだお子様で。

「そんな事大声で言う奴がいるかーっ!!塔矢のバカヤロウ!!」

 と、叫ぶとアキラも追いつけないような早さで逃げたのであった。
 そして最初の出会いから約三年。
 こうして二人は紆余曲折の末に両想いとなるのだが。




 塔矢アキラに惚れたのは間違いだったのかもしれないと後々もヒカルは思い悩む事になのであった。









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