くどき上手4



 伊角さんの新初段シリーズを見るために道を急いでいた俺は門脇さんに呼び止められて昔の対局が話題になった。
 あの佐為との一局の事。
「俺と打ってみます?」
 俺は門脇さんに対局を申し出ていた。
 彼の中にある佐為と本当の俺との間に、どれだけ差があるのかを知りたくて。
 北斗杯に向けて毎晩遅くまで、佐為と打った数々の棋譜を並べて勉強をしているつもりでも、誰かにその力を推し量って欲しかったのかもしれない。


 そして中押しで俺は門脇さんに勝った。
 碁石を片付けながら、迷いが吹っ切れたかのように門脇さんは俺に話し掛ける。
「やっぱり君に抱いた期待は外れじゃなかった」
 と、いう事は俺は佐為の碁を引き継げているという事だ。
 そりゃあまだまだ佐為には及ばないけれど、やっぱり嬉しい。
「俺は、ずっと君に対して尊敬と憧れを抱き続けるんだろうな」
「門脇さん……」
 囲碁は実力の世界だから、年上の人からこんな言葉をもらうのは有りだとは思うけれどなんだか照れ臭かった。
 この調子だと北斗杯のメンバーにも確定するかもしれない。
 見てろよ塔矢!
 四ヵ月の絶縁宣言したと言っても塔矢とは恋人同士でもあるから度々会うのだけど、近頃は一切碁を打っていない。
 本当は完全に逢わないつもりだったんだけど、塔矢の我侭に押し切られた感じで、たまに『デート』をしている。
 もちろん塔矢との関係は、微妙に清い関係だったりする。
 つまり『B』止まりの仲なのだ。
「それにしても、月日が人を変えるとはこの事だな。進藤君は随分綺麗になったじゃないか」
「はぁ!?」
 自分の考えに没頭している合間に、なんか聞いてはいけない言葉を聞いた気がする……。
 綺麗ってどういう事?
「尊敬や憧れだけを抱くんじゃなく、いっそ進藤君もこの腕に抱いてみたいね」
 ……やっぱり。
 塔矢がこんな言葉聞いたら門脇さん、あんた殺されちゃうよ。それでなくとも『B』より関係が進まずに、あいつかなり切羽づまってんだから。
 『C』は絶対しないって訳じゃないし、そんながっつかなくても自然の流れでそういうふうになるもんじゃないかって俺は思うんだけど。
 ため息をつく俺に門脇さんは……。
「いただきます」
 あれ? ちょっと今のは?
 あろう事か考え事している俺に門脇さんは触れるだけと言えど、キスをしたのだ。
「か・か、か……」
「ははは冗談だよ。おっと伊角の対局終わってるんじゃないか?」
 多分顔は真っ赤だ。
 それより誰も見ていなかっただろうな? こんなの塔矢にバレたりしたら……。あいつすんごく嫉妬深いんだよ。
 対局室の隅だったためか、誰の目にも付いていないようだったので、俺は安堵に胸を撫で下ろし、そして伊角さんの対局を見に足を向けたのだ。

 後日。
 誰にも見られていないと思っていたのに思わぬ伏兵がいた事を俺は知った。
「越智に聞いた。君、門脇とかいう今年入ったプロと二人でしけこんでたそうだね」
 塔矢の追及が延々と続く。それにしけこむって言い方がいやらしいと思わないか? そんなに俺を尻軽にしたいのかこいつは、と思ってしまう。
「碁、打ってたんだよ。何べんも言わすなよ」
 イライラとしながら、キスしてしまった事を思い出していた。ちょっと掠めただけと言えどもキスはキスだし、門脇さんの存在自体が俺にプレッシャーをかける。
「……僕に何か隠しているだろ?」
「隠してなんかいねーよ」
 ライバルの存在に塔矢が暴走しないという保障はどこにもない。ここは誤魔化し続けるべきだろう。
 そう意気込んだ俺に塔矢はずはりと切り込んでくる。
「もしかして抱かれたとか……」
「キスだけだ!! どうしてそっちに話がいくんだよっ!! あっ……」
 気が付くと塔矢の誘導尋問に引っ掛かり、墓穴を掘ってしまっていた。
 もしかして塔矢は見ていたんじゃないだろうか?
「やっぱり。門脇か……。覚えておこう」
 そう言いきった塔矢の眼光の鋭さといったら……。
「あの、塔矢。穏便に、なっ?」
 犯罪だけはしちゃだめだぞ?
 新聞沙汰になったらどういう言い訳するつもりだ?
 この年で痴情のもつれっていうのは勘弁してほしいよ、まったく。
「解っている……。その前に、君におしおきだ!」
 その細い体に見合わない強い力で肩を捕まれて、強引に抱き締められる。
 顎を捕まれて塔矢の意図を知るが、俺は抵抗しない。
 だって俺達は恋人同士だから。
 まだ『清い関係』だけど、塔矢がこの調子だと『C』にいっちゃう日まで、そう遠くないんだろうなぁと思いつつ……。


 俺は塔矢と大人のキスをしたのだった。


ものすごく、推敲無しの書きなぐりです。省けるとこはまったく書いておりません(反省)
連載中、原作読んだその勢いのまま邪推を短編として書いて、つなげるつもりは無かったのに、気が付けばシリーズっぽくなっていました。この二人、いつになったらエッチできるんでしょうか!?
 やっぱり北斗杯の打ち上げとかなぁと思いつつ。




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