「
おーい塔矢ぁ、あのさ今から暇?」
棋院を出たところで愛らしい笑顔に呼び止められる。
僕の永遠のライバル兼、もっか片思い中の進藤ヒカルその人に。
勿論僕も意中の進藤に暇かと聞かれて忙しいと答えるような朴念仁ではない。
君のためなら緒方さんとの約束なんかくそくらえだ。
君が誘ってくれるならどこにだって行くよ、と期待に胸をときめかせ、誘われた場所はなんとカラオケボックス。
初めての経験である。
「えぇーそいつ連れてきたのかよ」
「塔矢が歌うの見たいって言ったの和谷だろ」
そんな会話が交わされていてもへこむようなやわな神経は持ち合わせていない。
『つまり見せ物なのか。いやそれでも進藤の誘いだ。つきあうよ進藤!!』
そう僕はこぶしを握り締める。
しかし、その決意を後悔するには一時間も必要なかった。
タンバリンやマラカスを打ち鳴らし、椅子の上で跳ねている。これが正しい歌い方なのか?
ちなみに僕は音楽の授業でしか歌った事がないため不勉強ではあるが、なにかおかしい気がする。
一同に酒ははいっていないし、もちろん薬だってしていない。
なのになんだ? このハイテンションは。
馴染めずに目を白黒させている僕に進藤がマイクと歌の本を差し出す。
「なぁ塔矢も歌えよ」
「うっうん」
進藤のこの笑顔に、僕は拒否権など持ちあわせては居ない。
仕方がないから、近頃知った進藤と同じ名前の歌手の歌を歌ってみせる。
どうせ皆は僕が囲碁バカで世事には疎いとふんでいたのだろうが、そうは問屋がおろさない。
進藤の前で恥などかけるもんか。
こういう事もあろうかと練習済みだ。
歌い終わって進藤をみると、にっこりと微笑み返してくれる。どうやら僕の気持ちが伝わったようだ。
僕がそんな幸せに浸っていると、テレビモニターに映された次の曲に和谷が笑い転げたではないか。
「やっぱりこれは押さえとかないとな」
冴木と和谷がステージに立って歌い始めて、僕が青ざめたのは言うまでも無い。
挿れるだとか、イくだとかいう歌詞を進藤が一緒になって歌っているという事実に飲んでいたジュースを吹き出しかけたぐらいだ。
大笑いする進藤を見ながら、僕は和谷及び冴木の両名は進藤の教育上よろしくない人物であると位置づける。
ちなみにそこまでは、僕もまだ耐えられた。
だがしかし、必死に耐える僕の繊細な神経を、進藤ヒカルは一刀両断にしたのだ!!
「じゃあさ、俺、次これ歌うー」
口にするのも憚れる、○○の大冒険……。
普通に歌えば、お姫さまを助ける大冒険だが、あろう事か進藤は、「た」で区切れば良いのに「ま」で区切って歌ったのだ。
つまり、その人物が「マカオにつく」のではなくて、歌い方によってとあるモノが「顔につく」となってしまい、蹴られかけたり、ナイフで切られかけたり、しなびたりと男としてはとても堪え難い歌詞になる。
そしてそして追い打ちをかけたのは、歌の合間の「臭そうーー」とか「痛そうーー」という下品な合いの手だった。
僕の進藤が……、僕の進藤が、こんな下品な歌を歌うなんて!!!
「ふざけるなっっ」
そう進藤に言い放って僕はカラオケボックスを飛び出したのだが、後日進藤に確かめたところ、僕がどんな反応するか見たかったらしい事が判明。
「そんなに怒る事かよー。第一男なら誰でも持ってんじゃん」
そうは言うが進藤、君は僕の夢を壊した事を知るまい。
僕は震えるこぶしを必死に堪え、決意を新たにした。
お父さん……。
僕の夢を壊した代償として、進藤が僕に組み敷かれ、歌にも出た「アレ」を握られどんな反応するか僕は確かめたいと思います……。
「幽玄回廊」のあんずさまにリクエスト小説をいただいた御礼に、何かリクエストしてくださいと申し出たところ、『カラオケボックスで冴木さんとデュエットする和谷。その歌を聞き爆笑するヒカルとジュースを吹き出すアキラ』という場面を、イラストでとのリクエストをイメージソングとともにいただいてしまいました。マジっすか!?あんずさま……。と冷や汗流しつつ描いたわけですが、このイメージソングっていうのがまたすごい!!著作権の関係で差し控えますが、ずばりすごい。それを見ているうちに、そういやあんな歌もあったよね〜なんて思い出したのが、この小説に出てくる歌。昔会社の先輩が「ま」で区切って歌ってくれまして『こいつサイテー』なんて、まだ乙女だった高那は思った訳ですが、そんな方も今では立派な身内。合コンで歌っちゃまずいよなぁ。という訳でそんな『すごい歌』を歌うヒカルに激怒するアキラのイメージが湧いたので、ヘボイラストと共にヘボ駄文も送りつけたのでした。ちなみにヘボイラストは載せません。やっぱり私は文章書きなぐりしか出来ないのでどうしても見たい方は……ってそんな方居ないか・・・。
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