DEEP SPACE




 宇宙探査船はワープ5(ファイブ)で航行を続けている。秒速 3千万km というスピードも慣れれば大した事はない。
 塔矢アキラはギャラクシー級のU.S.S. ムサシの科学士官として乗船してまだ一ヶ月の新米だ。
 取り立てて宇宙に興味があった訳でもなかったが、そういう家系というか環境であったためになるべくしてなったと言ったところか。
 引退した父親である塔矢行洋も宇宙艦隊に所属し、歴代の艦長達に引けをとらない功績を残している。そんな彼を慕って『船乗り』になった緒方がこの船の艦長だった事から、アキラも『ムサシ』へと乗る事になった訳だが…。
 勤務は勿論交代制で、仕事上の付き合い以上に親しくなった人物はいない。行洋が士官学校で教えたという人物が数人いるから全く孤独という訳ではなかったし、アキラにとって孤独は忌み嫌うものではなかった。
 毎日スケジュールどおりの生活をする。何ヶ月かすれば地球へと帰る。
 それだけのはずなのに、アキラは苦痛を覚えていた。
 狭い空間だからだろうか。
 窓の外は無限の宇宙が広がっているのに、自分が立っているこの空間は嫌になるほど閉鎖的だ。
 ストレスだろうとの主任医療士官の言葉に納得出来ても、彼女はそれを解消する術は教えてくれなかった。
 原因である進藤ヒカル。
 彼の存在がストレスだというのは仕方ないだろう。人間誰しも合う合わないがあるからだ。
 そして、彼から受けるストレスを解消するとなると彼の存在そのものを排除しなければならなくなる。それはまず無理な話だった。
 このままでは仕事に支障をきたすと、アキラは自分のベッドに眠る進藤ヒカルを見下ろすのだった。




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