誘惑の甘い罠 4



 刹那が恥じらうように視線を逸らせる。やはり今のキスは刺激が強すぎたらしい。
「い、今のはなんだ?」
 己の唇に人差し指で触れる刹那。キスしたせいで唇は赤くなり潤んだ瞳のせいか刹那が妙に色っぽく見えてくる。
「い、今のはだな、そう!刹那が可愛くてつい食べてしまいたくなったんだ」
 苦しい、苦しすぎる。
 刹那がフレンチキスなんて知らないだろうが人間には本能ってものがある。刹那の本能に火をつけてしまったらと思うと気が気でない。
 しかしそんな心配は無駄だったようだ。
「そう、なのか…」
 納得したらしい刹那に一息ついて、これ以上話すことはないとばかりにそそくさとベッドに入るとロックオンは深い眠りについたのだった。


 それからは幸いな事にミッションで刹那が東京に待機となったのだった。
 ようやく一人部屋を取り戻したロックオンだったが何故寂しさを覚えている自分に戸惑っていた。
「嘘だろ、俺。相手は刹那だぞ」


      ********


 ミッションで離ればなれになってもロックオンは気にしてなさそうだ。
 男と女が触れあうのは夫婦になった時だと教えられてきた。
 だからロックオンと唇が触れた自分は結婚しなければならなくなったが、むしろそれが嬉しかった。
 なのにロックオンはあまり乗り気でないような気がして申し訳ない気がしてくる。
 やはりもう少し女らしい身体の方が良いのかもしれないが、まだ16なのだ。あと2・3年もすればきっとスメラギのような胸になるはずだ。多分。
 おまけに同じベッドになれば子供が出来るとも聞いたのにいつまで経っても子供は出来ない。
 きっと何か違うのだと思っても誰も教えてくれなくて、相談したはずのドクターは裸になって寝れば良いと言うだけで根本的な指摘には至らなかった。簡単に裸と言うがそれは恥ずかしくて無理だと刹那は唇を噛みしめる。
 この恥ずかしいと思う気持ちがロックオンとの溝のようで悔しいが仕方がない。ありのままの自分をさらけ出すなんて無理だ。そもそも男と女が同じように働き、権利を主張するなんて考えられなかったのだから。
 ロックオンは18になったらと言っていたから、そもそも年齢が足りないだけなのかもしれない。
 それにしてもロックオンとこれだけ親密になってもまだ親密さが足りないだなんて考えられなかった。
 毎日同じベッドで眠る以上に親しくなるなんて有り得るのだろうか。
 いや、あるはずだ。あのキスは今までのキスとは全然違ったのだ。ロックオンに唇を優しく舐められ吸われる。柔らかい舌同士が絡みあう。
 そこからはよく思い出せないがまるで身体の奥から溶けてしまいそうだった。
 きっと俺の知らない世界がまだあるのだろう。
 だからロックオンともっと親しくなりたい。そう思っているのに。
 東京で待機している間、ロックオンは何をしているのだろう。地上に降りると都合が悪いのだろうか。
 この部屋に来てもらえればもっと親しくなれるだろうか?


      ********


「ロックオン、俺の部屋に来てくれないのか?」
 通信機の画面の刹那は頬を染め真剣な眼差しだ。
 東京潜伏も一週間。そろそろ連絡があるかと思っていたがビンゴだ。
 それも部屋にお誘いときた。
 これはまずいだろう。刹那も本気になったって事か?
 なんとか逃げなければ、貞操の危機だ。
「刹那、俺も我慢してるんだ。お前を大切にしたいんだよ。紳士的だろ?」
 適当な言葉の羅列で逃げる。なんて薄っぺらい言葉だろう。しかし家になんかいけば、こっちが襲われるかもしれない。
 男を押し倒すのも押し倒されるのもごめんだった。
 悪いな刹那。刹那が嫌いってわけじゃないんだ。ただ男同士、不毛な関係にはなりたくないって健全な思考があるだけなんだ。
 なのに……。
 そうかと一言だけで通信を終えた刹那。
 何故か気落ちした刹那が脳裏から離れない。


 刹那の誘いを断った事をほんの少し後悔した自分をロックオンは信じられないでいた。








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