誘惑の甘い罠 2



 同室になってから1ヶ月。ミッションがあるおかげで、なるべく部屋にはいたくないという願いは叶えられつつある。
 意外と寝相の良い刹那のおかげで同じベッドも苦痛ではなかったが、やはりミッションの疲れで泥睡してしまうから他人の寝相まで構っていられない、というのが大きいようだ。
 今は待機中なので嫌がおうでも刹那と顔を合わせていなければならなくて、はっきり言ってミッションプランの打ち合わせとかでないと話題がないだけに居心地が悪い。
 刹那といえば黙々とトレーニングをしているだけなので実害はないのだが、いつ話を蒸し返してくるか判らない恐怖があった。

 だが、ふいに腹筋を鍛えていた刹那の動きが止まり、いかにも納得出来ないとばかりにこちらを見て、またもや爆弾発言を落とし俺の寿命を縮めようとしたのだヤツは。
「ロックオン、どうして俺達に子供が出来ないんだろう?」
 同じ部屋にいるのに腹が膨らんでこない事を疑問に感じているらしい。
 はっきり言って胃に穴が開きそうだった。
 俺はお前にキス以上のことをした事はないし、第一男同士だろ?
 刹那の腹筋は余計な脂肪など皆無で、平らな下腹部には子供が宿るはずもない。誤解を訂正すべきであるがそんな気力も薄らいでいた。
 男と女ならセックスすれば子供が出来ようが男同士セックスは出来ても子供は無理な話だ。それをこんなお子さまな刹那に話したところでどうなるだろう。
 大人の俺が説明すべきなのか?
 解ってはいてもそれはやはり荷が重い。
 周りに助けを求めても皆が刹那の味方で、おめでとうだとか若奥様だなとか、ほかには言葉に出さなくてもあからさまに顔を赤くしたり。
 俺が刹那に何をしたってんだ。たかだかキスだぜ? 刹那にとってプロポーズと同意味があるなんて誰が考える?
 ここは医者であるモレノに助けを求めるべきか。一抹の不安があるがヤツも医者の端くれだ。そうだ、そうしよう。
 良い事を思い付いた俺は肩の荷が降りた気がしていた。

 本当は解っている。
 俺はズルい男なんだ。
 刹那に根負けしてキスしたのも、男とは結婚しない主義と説明しないのも。
 余計な溝を作って、マイスター同士の軋轢を生みたくないという勝手な理由。
 なのに刹那に請われるままキスするなんて。ホント最低だ。
 最近では刹那が可愛く見える時もあって自己嫌悪だった。
 相手に不自由してるから男の刹那を抱くなんて事はしたくないし、勿論そんな趣味はないが、まだ中性的な雰囲気を残す刹那ならば可能性がなくもない…なんてまで考えが至りさらに自己嫌悪に陥った。最低だ俺。

 しかし、翌日になってモレノと話をしたという刹那が言い辛そうに話しかけてきて俺は内心ガッツポーズをした。
 どうやら色々と聞いたらしく刹那の顔が赤い。これでようやく誤解も解けたのだろう。
 恐縮している刹那には申し訳ないが男同士子供は出来ないし、俺自身男とは結婚する趣味はないんだ。
 謝らなくても良い。解ってくれたならそれで良いんだ。なんて言葉を用意してたのに!
「モレノに聞いた。裸で寝ると良いらしい」
 あんのヤブ医者っ!今すぐ出てきやがれっ!なんて説明をしたんだ!
 は、裸だって!?
 真顔の刹那に俺は卒倒しそうだった。
 まさか雄しべと雌しべが、いやこの場合は雄しべと雄しべがなんて事まで言ったんじゃなかろうか。
 くそっ!ぜってー楽しんでやがる。
 チラリと刹那を見ると襟元のボタンが外され白いシャツを脱ごうとしているではないか。

 まさか、今夜から裸…なのか?
 どうするよ、俺?








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