Sugar Baby Love 3




「やっぱ俺帰るわ」
 ロックオンが腰を上げて荷物に手を伸ばすのを見て表情にこそ出さないが刹那は内心慌てていた。
「何故だ?」
 居心地が悪かったのだろうか。女だと知られるまではどんなに無言でいてもロックオンが気まずそうにする事はなかった。
 やはり俺が女と知られたからなのか? それとも素っ気ない態度に気を悪くしたのか?
 こういう時は愛想良くして、飲み物の一つでも出せば良かったのかもしれないが、必要以上に構いすぎてロックオンにこの気持ちを知られるのだけは嫌だった。
 女と解っただけで態度が変わったロックオン。もし気持ちがばれたら?
 ティエリアはロックオンに対し、「遊ばれて捨てられるのがオチだ。あぁいう男は次から次へ渡り歩く。泣かされるのは女だからな。この間フェルトを口説いていたのをアレルヤが見たらしい。あいつ好みの胸なんだろう?」などと一気に吐き捨てるように口にしていた。
 彼女ぐらいの美人なら胸ぐらい小さくてもと思うがそうでもないらしい。ちなみに俺に胸さえあれば!なんて呟いていたのは聞かなかったふりをした。
 そして、逃げようとするロックオンに刹那は詰め寄る。
「理由を言え!」
「せ、刹那」
 ロックオンの胸ぐらを掴み、下から睨み付けると、しどろもどろに言い訳しようとしてさらに視線が泳ぐ。
「いや、悪い。ほら気になる女の子と二人きりってやっぱ俺も男だし意識しちまうっていうか」
「気になる?」
 どういう意味だろうか。
 何が気になるのかロックオンの言葉の意味が理解出来なくて首を傾げる刹那にロックオンは絞り出すように言葉を紡ぐ。
「自分を制御する自信がねーっていうか」
 遠まわしでも意味が解るように言葉を選んだつもりだったが刹那は不思議そうに見上げてくる。察してくれよと思うが刹那にはまだ早いのか?
 大きな瞳の刹那はこうして見ると本当に可愛い顔をしている。
 ふと、タンクトップ胸元から小さな膨らみが見えて、ロックオンは慌てて上を向いた。
 こんな子供に反応しそうだなんて……、まさか本当にロリコンになってしまったかとロックオンは青ざめる。
「俺が気になる?……なにか変、なのか?」
 ロックオンの言葉に刹那も胸が苦しくなっていた。
(きっと女とばれたからだ)
 やはり知られなければ良かったと迂濶だった自分を呪う。
「あぁ変だ。こんなの仲間に抱く感情じゃねーよ。刹那を女として気になるなんてさ、俺達は世界に喧嘩売ったのによ」
「女として?」
 つまりどういう事なのだろうか?
 もう少しはっきりと言ってくれないと意味が解らない。訝しげにロックオンを見ると彼は深く深く溜め息を吐いた。
「お前、男の前でそんな格好でさ、俺を男として意識してないだろ」
 ロックオンの視線の先が胸元にあって、何を見ているかと下を向くとタンクトップの隙間から胸が丸見えになっているではないか。
「うわっ」
 慌てて胸元を押さえロックオンを見ると彼自身の頬も赤く気まずそうだ。
「ずっと見えてたのか?」
「いや、その、見てない!見てないけど見えちまうっつーか」
 恥ずかしかった。こんな板のような胸を晒していただなんて。
 16才になってもこんな発育不良でロックオンはどう思ったか。
 年下である14才のフェルトの胸は既に完成品のようだし、周囲は皆スタイルが良い。(ティエリアを除く)
 情けなくて涙が出そうになるが突然ロックオンに抱き締められ涙は止まる。
「ロックオン?」
「その反応も反則」
 口元を手のひらで隠したロックオンは再び深く溜め息を吐く。
「間違い起こす前に帰るわ」
 接近した刹那の華奢な体に、これ以上はヤバいと脳内でサイレンが響く。
 さすがに刹那の年齢に手を出すのは犯罪だ。
 抱き締めた身体を解放し、刹那の手首を取りそっと衣服から離させようとするが、刹那はきつく握ったまま……。
 それどころか胸に刹那の額が当てられ小さな声が聞こえてくる。
「…わない、」
「えっ?」
「ロックオンとなら何があってもいい」
 震える声、俯いた刹那の表情は読めないが……。
「そ、それって」
 今までの女経験が無駄にならなかった、これは間違いない!とロックオンは確信する。
 これこそが据え膳ってやつだ!
 ごくりと喉がなる。
「ロックオン?」
 上目遣いで頬を赤らめた刹那。
 もしかしてその格好は精一杯に誘ってたとか?
「せっ、刹那!」
 その場にがばっと押し倒しても刹那に嫌悪は見られない。
 これは確実にヤれる!
 ゴムはないから外出しになるのか。…いや小さなこの胸にかけるのもいい!
 その前にどれぐらい小さいのかと胸に手を伸ばす。小さい胸は感度がいいらしいが刹那はどうだろう。
 服の上からそっと触るが本当に無い!
 人差し指が見つけた小さな突起だけは男より若干存在を明らかにしたが、今までの熟れた女とは違う。
 指で押し潰すようにすると「やっ」と刹那から僅かな抵抗があった。
 そして……。
「ロックオン、あの。こんなのはもう少し大きくなってからがいい…」
 珍しく歯切れの悪い刹那だったが、そんなに小さい胸が恥ずかしかったのか?
「バカ、小さくてもいいじゃねーか」
 俺が大きくしてやるよとタンクトップを捲りあげると刹那の手に阻まれる。
「……なんの話だ?」
「何って。エッチすると胸大きくなるんだぜ」
 その言葉に刹那の表情が固くなり声も低くなる。
「俺が言ったのはこんな行為は大きくなってから。つまり俺が18になってから。だが?」
 尖った声にロックオンは頭を抱える。
「嘘だろ!」
 俺はまた間違えてしまったのか?
 もう間違えないと決めたのに!
 なんていう半端な反省をしている場合じゃない。飢えた狼丸出しで刹那はどう思っただろう。
「ティエリアの言葉を今やっと理解した。やはり最低の男だな」
 軽蔑の眼差しにガツンと頭を殴られた気分だった。
 呆然としているロックオンに、刹那は彼の荷物を蹴飛ばして、そしてドアの外へとロックオンを追い出していた。
 鍵を掛けて刹那はその場へと座り込む。
 ロックオンの大きな掌で触られた胸。
 今もまだドキドキとしている。ロックオンが無関心でないと知ったのは嬉しいが遊びなのは勘弁だった。
 彼の記憶に残るだけの存在にはなりたくない。むしろロックオンの最後の女になりたいなんて叶わない願いなのかもしれない。
 初恋は実らない。刹那はそんな言葉を実感していた。



「俺が何をしたってんだ!」
 ナニをしようとした訳だが叩き出されたロックオンは中途半端に屹立しかけた自身を収めつつも、自分もかなりデリカシーがなかったと気付く。
 それだけ刹那に夢中なのだという証。
 欲しいという独占欲。
 誰にも渡したくないし、もう誤魔化しようがなかった。
「刹那! ここを動くなよ!今すぐ婚姻許可証を取り寄せてやる!」
 しかしここはユニオンの経済特区の日本。
 まだ戸籍制度が現存し、コードネームしか知らない互いが法的に結ばれるにはまだまだ障害が残るのだった。





一応の最終話です。お付き合いくださいましてありがとうございました。刹那ニョタは書いていて本当に楽しかったです。今後はアニキがせっちゃんに振り回されること間違いなし!です。
あともう少し未来設定で、後日読みきりを更新する予定です。



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