失楽園




 失って初めて解る事もある。


 徐々にスキンシップが過剰になっていくのを自制せぬままに放置して、まるで弟に接するつもりでいたのに、気がつけば8才も年下の仲間を無理矢理に蹂躙していた。
 言葉はないが抵抗もなく、キスには答えなかったが快楽を享受する身体は正直だった。

 刹那から泣き言や抵抗の一言でもあれば誤解などしなかっただろう。
 しかし刹那の態度はロックオンに望みを与えたのだ。
「刹那、お前も同じ想いだったんだな」
 互いに想い合っていなければ男同士だ、交わるなど出来はしない。
 刹那も無表情の仮面で隠した顔があったという事だとロックオンは嬉しくなる。しかし刹那はそんなロックオンの言葉をまるで聞いた事のない言葉のように首をかしげたのだ。
「意味が解らない」
 何が同じなのか皆目見当もつかないと言いたげな顔を見せる刹那にロックオンの声音も自信をなくしていく。
「俺を好きじゃないのか? 抵抗しなかったのはそういう事だろう?」
「好き? 解らないな」
 虚勢でもなく、まるで何もなかった事のような刹那にロックオンは誤解していたのだと知る。
「いつも考える。どうして俺は女の代わりにされるのか」
 ポツリと零された刹那の告白。それは日常的に男と関係があったという事だ。
「訳が解らなくて、抱かれるのか?」
 だから自分にも抱かれたのか?
 そんなロックオンの質問はあっさりと肯定された。
「抵抗すれば殴られた。だから抵抗などしない。それにお前が殴らない保証はないからな」
 お前がそうでないと言い切れないと断言した刹那にロックオンは悲しくなった。
 まずは刹那にある自分の評価の低さ。次に刹那の生い立ちに、だ。
 そして今、刹那の中にあった信頼すら失ってしまったのだろう。
 14才で組織に入ってきた時、すでに刹那の白兵戦技は完成されていた。
 過去なんて気にするつもりはなかったが、CBに入ろうと思うぐらいだ。その過去は決して軽くはないはずだ。
 組織に入る前にどんな生活をしていたか予想はつく。
 世界の一番汚いところを歩かされてきたのだろう。
 しかし、刹那は腐らずに前を向いている。
 泥にまみれてもなお輝きを失わないからこそ惹かれたのかもしれない。
 おずおずと手を伸ばし刹那の頬に触れれば、刹那が一瞬だけ躊躇して、ロックオンの手を握る。
「そういえば、お前が一番優しい抱き方をした」
 淡々と答えた刹那にロックオンが泣きそうな顔を見せた。
 愛があるからこそ、優しく抱けるのだと刹那は知らないのだ。
「なぁ、刹那。俺が愛ってのを教えてやるよ」
 



 あれから、どれだけの月日が過ぎたのだろう。
 失って初めて解る事がある。
 お前が消えて胸に穴が開いている。

 無責任に手懐けるな。

 散々優しい言葉をかけられても、ロックオンの言う愛など解らなかったが、お前を失った今になって俺は愛というものを思い知った。





拍手お礼SSより。



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