君はPretty Woman 7





 武力介入も回数を重ねれば数字的にも紛争が減る。つまり、CBとして武力介入する回数も徐々に減りつつあった。
 今は待機行動中、数日後に迫ったミッションのために身体を休め、鋭気を養っている途中だ。
 ガンダムの格納庫は木々に隠れているので、この島はまさに無人島の様相を見せている。
 プライベートビーチと考えればバカンス気分も味わえようが、いかんせん提供を受けるサービスが皆無となればこの島は牢獄に近い。
 非常食では味気ないからたまには外で食べるかと、ターフやキャンピング用品を持ち出す。
 キャンプファイアーとはいかないのは致し方ないとしてもなかなかのものだ。
 アレルヤが林檎と格闘し、ティエリアは何やらグラム単位の仕事をしている。
 刹那が炭に火を起こす作業をしているが手際が良い。だが日射しもあってか刹那は汗だくだ。鬱陶しそうに髪を払っている。
 随分伸びたな。
「なぁ刹那、髪切ってやろうか?」
「いい。伸ばす」
「それだと暑いだろう?」
 もし刹那が髪を伸ばせば、フェルトから見せてもらったあの刹那が出来上がる。それを毎日見るのは流石に心臓に悪い。
 短い髪だからこそ我慢出来るのだ。

 えっ? 我慢?
 何を我慢だよ俺!
 …本当に最近の自分を疑いたい。こんなキャラじゃないはずだが、刹那を前にするとどうも調子が狂うのだ。

「ほっ、ほら、刹那は髪短い方がよく似合うぜ。絶対可愛いって!」
「可愛い?」
「そう、可愛い!」
 不自然に繰り返す俺に刹那は何故か嬉しそうだ。
「じゃあ切ってもらう」
「服脱いだ方がよくないか?」
「このままでいい!」
 即座に返された言葉に軽く落ち込む。
 前に風呂を覗いたので警戒されているらしい。普通に接しているつもりなのだろうが刹那が身構えているのを解らないはずもなく、やはりあれはまずかったと後悔する。
 ざっくりと切り終えて、バランスを確認する。多少短いがまあ良いだろう。
「出来上がり。可愛く出来たぞ」
 こくんと頷いた刹那。男に使う形容詞じゃないが確かに可愛い。
 って俺の感覚もどうしたってんだ?
 最近、気になる存在からもっと危うい方へ傾きつつある。
 だいたい刹那は男だぞ、いくら可愛くてもイチモツだってあるし、脛毛も髭も生えているだろう。男に抱く感情ではない。
 最近、女性と深いお付き合いってのをしていないから飢えているのかもしれない。
 でも刹那とだったら有りだなと考える自分もいて自己嫌悪した。8才も年下の男に欲情するなんて……。ケダモノだ俺は。

「服の中に切った髪が入ったから着替えてくる」
 そう言って刹那は居住用スペースへと消えていく。もし今考えていた事がバレたらもう二度と話をしてくれないだろう。
 ため息を吐きつつ帰りを待つ。
 そろそろ食事なのだが、着替えるだけなのに遅い。
 まさか髪型が気に入らないとかでショックを受けているんじゃないだろうか?
 確かに切りすぎた感があるが。臍でもまげているんじゃないか心配になってきて謝った方が良いかもしれないと刹那の部屋に向かう。
 この時の俺は、刹那がついでにシャワーを浴びているとは夢にも思わなかったのだ。
 図ったようなタイミング。ドアを開けばユニットバスから出たばかりの、オールヌードの刹那がいた。
「せ、刹那?」
 頭は刹那で首から下は別人なんてSFはあり得ないから、間違いなく刹那の身体は女の子で。
 さすがに真正面から見て今までのように誤解なんて事はしていられない。
 途端に今までの刹那に対する態度を思い出してしまい俺は発狂しそうになった。女の子に対して俺は、僕は、私は……。いや、そうじゃない。
 なんというセクハラをしていたんだと考えるだけで刹那に申し訳なくなってくる。
 なんて謝ろうか。その前にまずは視線を反らすべきか?
 しかしまるで壊れた人形の用に身体は動かなかったのである。
 刹那自身が咄嗟に着替えにと持っていた服で隠したからほんの数秒しか見ていないが、辛うじて識別出来る膨らみと、何よりあるはずのモノがないのは確認した。
 先日見た時は違うと思ったがやはりあれは胸だったのだ。
 謝ろうと口を開いたが、かなり頭の中もパニくっていたらしい。
 俺の口からは謝罪の代わりに出た言葉は……。
「惜しいな。せめてCカップならなぁ」
 確かに寸胴とも思える身体にかろうじての胸。鳩胸と大差ないぐらいの貧乳。
 せめてCカップなら!と、つい自分の好みが出ていたのだ。そんな言葉に刹那のきつい眼差しがさらにきつくなる。
 裸のまま刹那は洗面所の水を出し、身体を隠すために使っていた衣服のうち、いつも首に巻いているターバンを水で濡らし、そして サイドスローの要領で俺の顔面に叩きつけたのである。呼吸を阻止するかのように巻き付くターバン。
 こっ呼吸ができん! 視界も塞がれ、水で重く濡れた布が命を削る。
 そうかこれは武器の一つだったんだと納得しつつ、やっと外す頃には刹那の姿はなかったのだ。
 土下座してでも謝ろうと刹那を探しているとアレルヤに出会う。
「せ、せ、せ」
「刹那ならティエリアのとこに。朝まで籠城かな? あの様子なら今夜は一緒に寝るんでしょうね」
 何!一緒に寝る?
 そういや、あんな様子のティエリアだが刹那と一緒に食事をしていたりもする。
 いくら仲が良いからと言って男の部屋に行くなんて!
 危険だ。あいつが女の子ならそれなりの行動をしてもらわねば!
 刹那が腕枕で眠るのはティエリアでもアレルヤでも他の誰でもない。
 俺だ!
 8才差がなんだ!男はテクの磨いた年上に限るぞ!

 そんな自分の考えに愕然とした。……、そうか俺はいつの間にか刹那の事を。 

 やっと気が付いて、そして惹かれる理由も今ならはっきりと悟る。
 刹那が女の子ならこれは男の本能だ。もう少しで危ない道に踏み入れたかもしれないと考えると、貧乳でもあるだけマシか。
 そんな失礼極まりない事を考えていたらアレルヤがさらなる爆弾を投げて寄越したのだ。
「彼女達そっとしといた方がいいですよ」
 刹那と何があったか知りませんが、ティエリアも夕食の味付けで1グラム塩を多く入れてしまい、美味く出来なかったと落ち込んでましたから。
 アレルヤの説明にそうかと納得しかけて思考が止まる。
「彼女達? まさかティエリアも女なのか!」
 刹那だけでなく?
 間抜けにも口をあんぐりと開けた俺にアレルヤは呆れ顔だ。
「本当に気がつかなかったんですか?」
 女には不自由した事もないし、フェミニストと自負していただけにショックは大きい。
「俺、自信喪失したよ……」
 まあ、確かに胸で判断していたが。普通、全体的に見て解るだろう?と自責する。
「もしかしてアレルヤ、お前もか?」
 おもむろにアレルヤの胸に手をやる。やはり固い。こいつは間違いなく男だ。
 虚しさで動きを止めた俺と驚きで固まったアレルヤ。そこにティエリアと刹那が現れた事は不幸以外の何物でもない。
「ほら見ろ刹那。ロックオンはただの胸フェチだ」
 あんな男に恋だなんて愚の骨頂だ。
 機嫌の悪いティエリアの軽蔑の視線と涙目の刹那。
「ごっ、誤解だーっっ!!」




 こうして漸く刹那の性別に気付いたロックオン。二人の恋はやっと始まりを告げたのである。
 その後、ロックオンと刹那の間に新しい命が誕生することになるがそれはもう少し未来の話。







ありがとうございました!ニョタ刹那でした。これでニョタもOKになった人がいれば嬉しいです。ちなみにBLでHは書けてもニョタでは苦手かもです。元から大したエロは書けないですがとりあえずお話的にはここまでです。ただ続編というか番外編みたいなのはネタがあるんで書けたらいいなと目論見。で、本に出来たらいいなと夢だけは大きく!って言いつついつも夢オチですがね。
しかし、ロックオンの鈍感ぶりにはお叱りも多数。でもここからはせっちゃんに振り回される日々ですのでvv



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