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「くっ、うぅ」
 指先を使って丁寧に、まだ青さの残る皮を捲ると、痛みからか刹那の口から呻き声が漏れた。
 顔を背け瞼を閉ざす刹那の額には汗が浮かぶ。
 そろそろ限界に近いのだろう。緊張感からか張り詰めた四肢。手の中のソレはまだまだ固い。
 痛みに腰が引ける刹那をロックオンは見兼ねたように叱咤した。
「こら刹那、逃げるな我慢しろ」
「……イ、ヤだ」
 いつもの刹那らしくなく弱りきった様子にロックオンも可哀想になってくるが仕方が無い。
「おいおい剥けてないのはお前だけなんだぜ」
 自分も含め他のマイスターも全員剥けている。
 動かし続ける指に、滑らかな実はようやく先端を顕わにしたところだった。
「痛っ」
 再び目を閉じた刹那の眉間には痛みを耐えるかのように皺が寄せられている。
「そりゃあ痛いだろうな」
 経験のある痛みだけにロックオンも同情的だ。しかしここは心を鬼にしなければいつまで経っても刹那が剥けないままなのだ。
「やっ」
 もうダメだと訴える刹那にロックオンは優しく語りかける。
「全部の皮を剥くって言ったのはお前だぜ」
 こくんと頷く刹那だったが先程からの痛みは尋常ではなかったらしい。
「全部剥き終わったら、特濃の『ミルク』ごちそうしてやるから」
 そんなものに誤魔化せるかとロックオンを睨むが迫力はゼロだ。
 しかし刹那の喉は『ミルク』の事を考えてごくりと鳴る。本当は大好きなのだ。唇についたものすら舐めとってしまうぐらいに。
 しかしそんな餌をぶら下げられたところで刹那の痛みは無くならない。
「もう我慢、出来ない」
 とうとう我慢の限界が来たのか。刹那の大きな双眸から涙が零れる。
「俺が手伝ってやってんだ。感謝しろよ」
 ロックオンの早い指先の動きに刹那が追いつけるはずもなく、絶え間ない痛みに刹那はただ涙を零し続けた。










                  * * * * * * * * * 











「遅い! 刹那・F・セイエイ。玉葱の皮を剥くのにどれだけ時間を費やす気だ」
 遅々として進まない計画にティエリアは原因である刹那を責める。
「そういうなよ、刹那のおっきな目にゃ汁が飛んで痛いんだよ」
 人参係りだったロックオンは早々に剥きおえて刹那の手伝いをしているが、当の刹那といえばまだ一つ目の玉葱に苦戦中だ。
 その玉葱も原種に近いのか、ほんの少し皮を剥いただけでも空気中に広がる成分が刹那を攻撃する。
 ジャガイモ係りだったティエリアも早々に剥き終えたし、林檎を剥いていたアレルヤも手に切り傷を設けながらもなんとかミッションを終えたところだ。
 いつもこの島に自生している玉葱を誰が剥いて切るかで争いがあるが、今まで刹那が免れ続けていたのはラッキーだったと言えよう。
 クジで決まったときロックオンが代わってやろうかと問うたが、意地を張った刹那は案の定手を止めてしまっている。
 リーチが短いうえに、指先が器用ではない刹那が顔を近づけすぎているのもマイナス要因の一つだ。
「カレーを作るにはまず玉葱を炒める必要がある。だから急いでもらいたいものだな」
 そういうティエリアの剥いたジャガイモも二割ほど体積を減らしているのだから、ロックオンにしてみればそう目くじらを立てる事でもないと思うのだ。


 それよりも、こうして潜伏中なのだから夜は浜で火を使うのはご法度だ。早く作り終えない事には今夜のカレーが生煮えになってしまうと、ロックオンは刹那と涙を流しながら玉葱を剥くのだった。








拍手お礼SSより。剥くを別の意味でとってもらえれば正解です。せっちゃんはきっと剥けてないとか皮被ってるとかそんなことです。 唐突に下品ですみませんでした〜



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