呼吸




 計画的なミッションではなかった。
 それでも任務が終わって潜伏地である東京へ戻ろうとする刹那をロックオンは背後から抱き締める。
 愛しい恋人はとてもつれなくてロックオンは不安になるのだ。ただ、抱きしめても回し蹴りがなくなっただけでもマシなのだが。

 任務と言っても実感がないのか刹那が不機嫌だと、最近は纏う空気で解る。
 それでも息の合った連係プレーにロックオンの相好は情けなく崩れてしまうのだ。
 そして、こうして抱き締めていると刹那の匂いに男として我慢が出来なくなる。制御不能と言っても過言ではない。
「したく、ねぇ?」
 腰を密着させるものの刹那からの反応はゼロ。
「別に」
 冷たく一蹴されても、ロックオンは刹那を解放するどころか悪戯を始めようと手を這わす。
「俺が刹那の年には毎日してたけどなぁ」
 淡白すぎると溢すと刹那の肘が背後のロックオンへと手加減なく入れられた。
「お前と一緒にするな」
 だが肘鉄をかわしたロックオンの手はもう刹那の衣服を乱している。
「なぁ、刹那のイイトコに狙い撃ちしてやるから」
 ナニでドコをかは言葉にしなくても雄弁な手が語る。しかし思春期の刹那にとってはあまり歓迎するような台詞ではなかったようだ。
「……その調子で遺伝子をばらまいてるんだな」
 せめてもの反撃と、刹那はロックオンの手の甲を引っ掻いてやるが、それぐらいでは刹那に触れる手は休む素振りをみせない。
「手厳しい〜。でも可能性はなくもないかな」
 何しろ百発百中だからな〜、などと大人の冗談をブラックユーモア的に口にしたが子供には嫌悪を催すに足りるものだったらしい。
「どうせ耕すなら実のなる方へどうぞ?」
 お好きにしてくださいと冷たい反応の刹那には嫉妬などは見られない。むしろ他へ行けとばかりの態度はティエリアばりの冷たさだ。
「可愛くないぞ、刹那」
 そこは『やっぱり僕じゃ、ダメ?』と上目遣いでおねだりしてもらいたいところだと呟くロックオンに向ける刹那の視線はさらに冷たい。
「可愛くてたまるか」
 女子供のように評価されるのは好きじゃないと言いたいのか。
「ったく難攻不落ってこのことかね〜」
 口説き落とせなかったと知ってロックオンは刹那を解放する。
 だが……。
「難攻不落というのは落ちてない場合に使うんじゃないか? 今のは正確じゃない」
 ツンと顎を上げて早足で遠ざかる背に苦笑しつつロックオンは刹那を追いかける。
「それってつまり落ちてるって事なんだよな?」
 実感は皆無すぎて、ロックオンは追いかけて良いものか数秒悩んだほどだ。
 可愛い恋人はきっと拒まないだろうと結論に達して追いかける訳だが、いつか彼が甘えてくれる日が来るとだけは思えなかった。

 次のミッションまで愛を深める時間はたっぷりある……。






お互い呼吸がぴったりなぐらい、本当は愛し合ってるに違いないっていう妄想。



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