Comeback



 手袋をした手が、優しく髪を撫でる。
「あーあ、こんなに涙でぐちゃぐちゃにして」
 ブラウンの少しくせのある髪を伸ばし、人に見せる表情はあくまでも軽い。
「お前らのせいだ」
「ひどいなぁ、俺じゃないのは刹那も良く解っているだろう」
 肩をすくめる仕草だって良く似ている。
「あいつも罪な男だよ。こんなカワイコちゃんを残していっちまうなんてなぁ」
「同じ顔でカワイイとかいうな」
 新しいロックオンだと紹介された男はとてもそっくりで俺を困惑させる。
 でも俺が愛した男でない事は一目瞭然で、一瞬期待した分だけ涙が出る。
 後姿も酷似していて、思わず駆け寄った。だけどこの男はロックオンじゃない。よく似ているただけ。
 こうして新しいマイスターが選ばれれば余計に喪失感が大きくなる気がした。
「ロックオン……」
「なんだ?」
 顔を覗き込む仕草も、声音も、何もかもそっくりなのに。
「バカ、お前のことじゃない」
「俺はロックオンだよ」
「……そうだな」
 自分達が戦争をしていると自覚はある。紛争の根絶を掲げていても、それは平和的な手段によるものではない。
 だからこそ、命の保障はどこにもなくて、解っていたけれどアイツを失った心は悲鳴をあげる。
 こうして同じ顔の男が紹介されて、新しいロックオンだと聞かされて堰を切ったように溢れだす涙。
「お前らのせいだ」
 本当に泣いていいのは、無念のままに逝ってしまったアイツなのに。
 遺志を継ぐ者として涙など不要だというのに。

 消えてしまったロックオンと現れたロックオンが嫌でも思い出させる。
 もう二度とあの日々が戻ってこないということを。
「刹那を泣かしてるのはニールだ、俺じゃない」
「どっちもだ、死んでしまったアイツとアイツを思い出させるお前と……」
「ニールは幸せだったんだな」
 こんなにも想ってくれる仲間がいた事。
 築き上げてきた時間には太刀打ちできない。
 俺だって『ロックオン』と比べられて気分がいい訳じゃない。

 休暇だと言って頻繁に故郷に帰ってきていたニール。両親と妹の命日には欠かすことなく墓地へ花を供えていた優しいニール。
「今、何をしてるんだ?」
「聞いて驚くなよ〜って話したいのは山々なんだけどなぁ、守秘義務があってさ」
「軍関係だな。だもお前の腕なら解る気がするな」
「それよりさぁ、恋人が出来たんだ」
「それはそれは。おめでとう。もちろん紹介してくれるんだろう?」
「ライルの趣味が俺と同じじゃなきゃ紹介したけどな」
 紹介した挙句、何度横から攫われたかと警戒するニールに笑ってしまう。
「お前だってクラスメイトのベッキーのこと忘れたわけじゃないだろう?」
 相思相愛の彼女だったのに、いつのまにかニールを好きになってしまったと打ち明けられた痛い思い出。
「まだ覚えてたか。こりゃ絶対に紹介できないな」
 仕返しに奪われちゃかなわないからなぁ、なんて言ったニールの笑顔はとても幸せそうだった。


 こんな形でお前のカワイイ恋人に会うなんて思わなかったよ。紹介したがらなかった気持ちがよく解る。男というハンデはあっても確かに俺達の好みのタイプだ。
 今頃お前はあっちで慌てふためいてるんだろうなぁ。
 解ってるさ。
 デュナメスってガンダムとハロだけだ、お前から奪うのは。
 ニールが選んだこの道がどんなに茨の道でもお前の遺志を継ぎ、必ず平和な世界を実現させてみよう。
 出来るならこの少年の涙も止めてやりたいが、それは俺の役目じゃない。お前の役目なんだぜニール。


 戻って来いニール。この席はいつだって明け渡してやるから。もし戻ってこないってんなら、わかってるだろう?
 お前が大切にしていたこの少年を掻っ攫ってやる。

 それがイヤなら早く返ってこい!ロックオン・ストラトス!!














拍手お礼SSより。二期妄想です



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