Arabian Night Serenade 2




 上から下までを無遠慮に見るロックオンに少年は恥ずかしそうだ。
「こ、ここで行われる晩餐会の余興で呼ばれている、楽団の……」
「ははぁ、さては練習が厳しくて逃げ出したな」
 まだまだ見習いの子供だろう。女形なのか、こんな衣装を着て踊るには抵抗もあろう年頃か。
 どんな踊りを見せてくれるのか気になる衣装を纏っている。
「逃げたの見つかると叱られるんだろ、これやるから戻れよ」
 ポケットに入っていた飴はこの国では中々手に入らないだろう嗜好品で、手にした子供達には大層喜ばれる。実際に市街地ではこんな小さな飴を満面の笑みで受け取る子供は多い。
「ありがと……」
 戸惑いながらも受けとる少年は、少女なら将来どれ程の美人に育つか楽しみな風貌をしていた。
 女形として踊らされるのもよく解る。
「俺はロックオン・ストラトス。お嬢ちゃんの名前は?」
 わざと揶揄するようなロックオンの言葉に少年の形の良い眉が寄せられる。
「俺は、女じゃない」
「確かに」
 むんずと掴んだ胸は明らかに作り物だ。
「下は確かめる必要はねぇよな」
 手が下がる気配に少年が驚いて後ろに下がる。
「お・俺に触れるな!」
 武器の有無を確かめるつもりだったが怒りで頬を赤くした少年にロックオンは誤解させたのだと知った。
「いや、そんなつもりじゃなくてだな」
 焦るロックオンに少年は艶やかに笑む。
「俺の名は、刹那・F・セイエイ。今度は俺の踊りを見せてやる」
 いつもなら、上から目線かこのガキが…と思うはずの場面なのに、今日何度目だろうかロックオンは再び少年に目を奪われていた。それだけ魅力的な表情をする少年なのだ。
 もう一度会いたいと思わせるなんてとロックオンは己の感覚に少しだけ戸惑っていた。
 だが偶然の出会いなのだろう。王宮へと向かって消えていった刹那をいつまでも見送り続けた。
 すっかり辺りは暗くなっていて、そろそろ交代の時間が迫っている。
 名残惜しさに、点呼に遅れても構わないから刹那を送っていけば良かったと悔やむ自分に、ロックオンはさすがに驚きを隠せないのだった。




 さらに加筆した部分です。以下 本誌に続きます。



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